高齢、障害統合で継続 複合施設「愛厚清嶺の風」開設〈愛知県厚生事業団〉
2025年06月15日 福祉新聞編集部
愛知県設楽町に今春、高齢と障害の既存施設を統合した複合施設「愛厚清嶺の風」が開所した。母体は、名古屋市に本部を置く社会福祉法人愛知県厚生事業団(内田康史理事長)。利用を待つ人(待機者)が減り、介護人材の確保も難しくなる中での統合だが、そこには「地域から福祉サービスをなくさない」という強い思いがあった。高齢と障害の既存施設の統合は、愛知県では初めて。職員は「全国の過疎地域の先例になれば」と前向きだ。
JR飯田線の本長篠駅からバスで約30分。5月23日夕、山あいの道を走り、4月1日に開所した「愛厚清嶺の風」を訪ねた。
清流、緑の嶺、自由な風
嶺の緑。渓谷を下る豊川の清流。一帯は古くから「清嶺」と呼ばれていた。
「施設名は、職員の80余の提案から投票で選ばれました。法人名にちなんだ『愛厚』と地区名の『清嶺』、それに『今は風の時代』との思いから、『風』の1文字を添えたそうです」
小野田哲也所長が、提案者の思いを代弁した。「風の時代」については、<改革、協力・助け合い、自由な発想などが重視される時代>としている。
特養改築し複合施設に
統合した2施設は、特別養護老人ホーム愛厚ホーム設楽苑と、設楽苑から車で40分ほどの、東栄町にあった障害者施設愛厚すぎのきの里。いずれも同事業団の運営だ。
特養の設楽苑を障害者施設にも転用できる複合施設に改修してオープン、すぎのきの里を解体する計画で進めた。
まず、定員変更。設楽苑の入所定員を110人から60人に、すぎのきの里の入所定員も60人から50人に減員。転出する高齢者50人と障害者10人は、順次、他施設へ移行した。
次に、高齢者50人が利用していた設楽苑の1階エリアをリハビリなどができるように改修。すぎのきの里から転入する障害者50人の生活空間とした。
一方、設楽苑の2階エリアは、特養(ユニット型)を続けて高齢者60人が入所。「高齢60・障害50」の定員に見合った新体制を構築。約5000万円の改修・整備費は、法人の自主財源でまかなった。

奥三河産の木材を使った和風のフロア。利用者はゆったりとくつろいでいた
利用者減と人材確保難
統合の背景の一つは、利用者減。すぎのきの里の待機者は2023年9月にゼロ、設楽苑も17年の80人から6年後の23年4月には36人に激減した。
次に職員確保の難しさ。すぎのきの里では、通勤に時間がかかるため、多くを地元のパート職員に頼っていたが、平均年齢が66歳を超えた。
設楽苑も介護人材が確保できず、22年度の途中から一部のユニットを閉鎖して定員110人を100人に減らした。
さらに、すぎのきの里は、築40年を超えて老朽化が問題になっていた。
22年秋から、本格的に検討。継続を強く望む地域の人々の声もあり、「2施設が共倒れになる前に、生き残る道は統合しかない」(内田理事長)と利用者や家族、関係者に説明して、統合に踏み切った。
統合を飛躍のバネに
地元の奥三河産の木材を使った和風の造りは、温もりが感じられる。プライバシーに配慮した部屋をそろえ、リハビリスペースを充実させた。入浴設備もミスト浴(寝浴)や座浴、リフト付き個浴などを備えた。
夏祭りなどの主要行事は、高齢者と障害者が一緒に参加する予定だ。感染症対策や虐待防止などの会議は、高齢、障害の職員が同席する。
「現実は厳しい。5年、10年すれば再び『次の一手』が必要になります。でも、人がいる限り、福祉のニーズはある。地域の人に必要とされる施設に、という決意です」と小野田所長。「共生型の複合施設として、新たな風を起こせるか」との問いには、「始まったばかり。これからです」と気を引き締めた。