長期修繕計画の作成と運用〈福祉施設長寿命化と再生④〉

2025年0926 福祉新聞編集部

長期修繕計画の作成については、建築的な知識や修繕に精通している専門家に依頼することになる。その運用に関しても、5年ごとの見直しなど、要所では専門家のサポートが必要であろう。

ここでいう専門家とは、施工業者、設計事務所、修繕を専門とするコンサルタントなどが挙げられる。マンションやオフィスビルであれば、計画の作成に実績を持つ多くの業者があるが、建物の性質がまるで異なる福祉施設を理解している業者は少ないと思う。

施設の利用者は、身体的、精神的にハンディがある人たちであるし、生活空間を持つ施設であれば、昼夜を問わず常に運営を継続しなければならない。また、マンションなどに比べて設備全般の比重が大きいことも福祉施設の特徴である。これらの特殊性を理解した上で、計画を立てていく必要がある。

例えば、調理室や浴室の改修を計画に見込むのであれば、工事中の食事や入浴サービスの提供方法をある程度想定した上で、それにかかる概算費用を検討しなければならない。

福祉施設の長期修繕計画の作成には、専門家サイドの一方的なノウハウだけではなく、運営サイドとしっかりと協議を重ね、施設の特殊性を加味していくことが大切になる。

計画作成に要する費用

建物の完成時に長期修繕計画を作成するのであれば、すべての部位、部材の劣化が一斉に始まるので、とても分かりやすいし容易である。

これが、施設の運営を開始してから作成するとなると難しくなる。まずは、建物の状況を把握するところから始めなければならない。現況調査や修繕記録の確認、また場合によっては、「建物劣化診断」など精度の高い建物調査も必要になる場合もあるだろう。

福祉施設の長期修繕計画を新規に作成する場合の費用は、事例が少ないため一概には言えないが、マンションの事例を修繕計画に詳しい設計者に確認したところ、100戸の規模、築30年のマンションで150万円から200万円程度ということであった。

同規模の福祉施設であれば、それに特殊性が多少加わると考えればよいのではないかと思う。

私の知るところでは、施工業者によっては、完成時に建物の維持管理マニュアルの一つとして、長期修繕計画を提供してくれるケースがある。

ベースとなる計画書があれば、検証と見直しという作業になるため、もちろん内容にもよるが、費用はせいぜい50万円程度ではないかと思う。

運営・管理方針の反映

長期修繕計画の作成や運用には、技術的なサポートのため、専門家が関わることが望まれるが、主体はあくまでも社会福祉法人であり、法人の管理方針に沿ったものでなくてはならない。そして、長期修繕計画には、法人の施設運営に対する考え方やビジョンも反映されるべきだと思う。

本来の目的は、将来を見据えた施設の維持管理だが、ICT(情報通信技術)による効率化や、省エネルギー化、利用者の快適性や職場環境の改善、災害対策など、法人独自の改修計画を盛り込むことで、長期修繕計画はより充実したものになる。


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