修繕計画活用のポイント〈福祉施設長寿命化と再生③〉

2025年0925 福祉新聞編集部

長期修繕計画の概要

建物の長期修繕計画の精度を上げるためには、可能な限り現状を反映し、実態に則したものにすることが肝要である。ポイントの一つは、修繕項目を詳細に分類することである。

例えば、屋上防水であれば、防水の種類だけでなく、施工方法によっても項目を分けておくとよい。仮に、同じ性能の防水材であっても、露出する防水層とコンクリートで保護された防水層では、劣化速度や修繕方法が全く異なる。

外壁でいえば、雨掛かりの部分とそうでない部分も項目を分けておくとよい。10数年後の外壁の様子は随分と違う。

もう一つのポイントは、修繕周期の適切な設定である。修繕周期は、メーカーの示す各部材の耐久年数を基に決められているが、年数には幅をもたせている。建物の仕様や立地条件などを考慮し、適正に修繕周期を設定することが正確な計画につながる。

ちなみにメーカーが示す保証期間は、その部材の性能に責任を持つ期間という意味合いであり、耐久年数よりはるかに短く設定されている。長期修繕計画の修繕周期を決める参考にはならない。

大規模修繕(改修)工事のタイミング

特に、大規模修繕(改修)工事のタイミングは、費用面や運営面にとても大きな影響を与えるため、適正に設定し、事前に準備を進めていく必要がある。

完成から15年から20年で1回目の大規模修繕工事を行い、30年から40年で2回目の時期を迎えることになる。2回目の大規模修繕工事は、エレベーターや配管など、大物の設備を更新する時期を迎えるため、より大掛かりな工事が予想される。

福祉施設の建設工事費の比率を見てみると、他用途の建物に比べて設備工事全般に占める割合が30%以上と、とても大きい=グラフ。マンションであれば、せいぜい15~20%程度である。そして、その修繕周期は比較的短く、特に冷温水発生設備や空調設備は15年程度である。

福祉施設の建築費比率

福祉施設の中でも、特に生活空間を持つ施設にとって、設備は運営維持の要であり、経年故障前の予防的な修繕や更新が望まれる。

大規模修繕(改修)工事の時期を考察すると、マンションであれば外壁や防水といった建築的な劣化が要因となるが、福祉施設の場合は、建築的な要因を含みながらも、設備的な要因に大きく左右されている。

5年ごとの見直し

長期修繕計画は、建物の将来をシミュレーションするものであるが、残念ながら、5年前に現在のこれほどまでの建設費高騰を予想できた人がいないように、どんな専門家であっても10年先、20年先のコストの上昇や下落を想定することはできない。また、日進月歩する施工技術や建材、設備機器の進歩も想定することはできない。

そのため、長期修繕計画は、少なくとも5年をめどに見直しを繰り返し、現状に合わせていく必要がある。

見直すべきポイントは、工事単価、数量、修繕方法、修繕周期である。また、その間の修繕履歴や点検報告書の内容を長期修繕計画に反映することも大切になる。工事単価は実勢の単価に、数量や修繕方法は、劣化状況を改めて調査したうえで再考する。

修繕周期は、工事のタイミングの早遅を見直すことである。例えば、排水ポンプの修繕周期は15年程度に設定されるが、点検や補修の状況から機能をまだ維持できると判断できれば、更新時期を2、3年単位で調整していく。

5年ごとの見直しは、いわば人間でいう定期的な健康診断のようなものである。今の健康状態をしっかり把握して、これからの健康維持と予防に役立てる。そして、避けられない老いに備えるということである。


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場所:TFTビル東館(東京・有明 / 最寄:ゆりかもめ・東京ビッグサイト駅)

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