ライフサイクルコストと修繕計画〈福祉施設長寿命化と再生②〉
2025年09月24日 福祉新聞編集部
建物にはライフサイクルコストという考え方がある。最初の建設に要する費用から、運営に必要な水光熱費や警備費、建物を維持するための保守点検費、清掃費、修繕費、そして、最後に取り壊すための解体費用などの総合計がライフサイクルコストである=グラフ。

ライフサイクルコスト
最初の建設に掛かる費用は、建物が生涯を終えるまでに掛かる費用に対して、わずか20数%程度に過ぎないと言われている。ランニングコストの低減や、日々のメンテナンスや、修繕がいかに大切かを理解いただけると思う。
予防的な修繕計画を立てることは、単に修繕コストを最適化するだけでなく、突発的な故障を防ぐことにもつながる。完成から24時間365日、休むことなく稼働しなければならない社会福祉施設の運営に不可欠な取り組みであると思う。ライフサイクルコストを意識した予防的な修繕計画は、結果的に施設自体の長寿命化にもつながるものである。
長期視点で考える施設管理長期修繕計画の活用
建物は完成した瞬間から劣化が始まる。それぞれの施設は、仕様や構造、設備システムなどの違いや、立地条件、自然環境、災害の有無など外力要件の違いにより、建物の劣化速度は大きく異なってくる。日々のメンテナンスはもとより、故障個所の早期発見と適切な修繕が、一番の劣化防止策であるのは言うまでもない。しかしながら、長期的に建物を維持管理していくには、将来に起こりうる修繕の時期や規模を事前に予測し、それに備えていく必要がある。
「長期修繕計画」に基づく管理は、建物の長寿命化や資産価値を守ることを目的として、マンションやオフィスなどでは一般的に取り入れられている。分譲マンションであれば、管理組合(管理会社)が作成し、将来的に必要になる概略の修繕費用を把握して、戸々が負担する修繕積立金の算出根拠にする。国土交通省では、マンション管理に長期修繕計画の作成と運用のガイドラインを示して活用を推奨している。
最近では、社会福祉施設でも長期修繕計画を作成しているケースがみられるが、浸透しているとは言えないのではないだろうか。予防的な修繕のためにも、避けることのできない大規模な修繕(改修)工事に備えるためにも、長期修繕計画の活用をお勧めしたい。
長期修繕計画の概要
表の縦軸には、建物の修繕項目を部位ごと、部材ごとに分類して、それぞれの数量や修繕周期を記載する。横軸には、暦や築年数を記載する。
計画期間は少なくとも30年以上、大規模な修繕が2回見込まれる期間以上とすべきである。本表は修繕や更新の時期を示すタイムテーブル的な略図であるが、実際の長期修繕計画には修繕に掛かる実費用が記載されており、将来に予測される修繕工事の時期や、必要な概算費用を事前に把握することができるようになっている。
長期修繕計画は、あくまでも予測である。そのため、安全側に作成されることが多い。将来の修繕積立を考えるのであれば、安全側に考えるのに越したことはないが、あまり保守的な計画では無駄な修繕費用を負担することになり、計画する意味がない。
第10回福祉新聞フォーラム「福祉施設 長寿命化と再生」開催
日時:10月8日(水) 13:00~
場所:TFTビル東館(東京・有明 / 最寄:ゆりかもめ・東京ビッグサイト駅)