迫る大地震、施設は大丈夫か 体験型でBCP学び直す(大阪府社協従事者部会)
2024年11月08日 福祉新聞編集部大地震の発生時、いかに事業を継続するか。多くの人命を預かる社会福祉法人にとって、BCP(事業継続計画)の充実は待ったなしだ。その策定と運用を学び、見直す研修が10月25日、大阪市で行われた。会場を間仕切りして、災害対策本部や救護所などのブースを設営。2時間30分、緊急時の行動を疑似体験しながら回った。次々と湧き上がる課題。受講者は、緊張感の中で本番を見据えた。
主催は大阪府社会福祉協議会従事者部会(小田秀治部会長=児童養護施設生駒学園)。リーダー養成研修で、会員約70人が参加。損害保険会社が共催した。講師は防災士で介護福祉士の渡嘉敷唯之ただゆきさん。能登半島地震など多くの現場に入り、BCPの在り方を研究、実践している。
会場は、たかつガーデン(大阪府教育会館)。地下1階の会議室を福祉避難所(帰宅困難者対応)の設営訓練に使い、地下2階の大ホールに、災害対策本部▽救護所▽業務縮小・受援▽避難準備・避難▽災害時の補償の五つのブースを設営。グループ分けして移動する方式で、その都度振り返りの時間をとった。
突然の暗闇
被災想定はブースごとに決めて始まった。
福祉避難所をつくるブースでは、「震度6強の地震で、近隣の車いすユーザー3人と、自宅の倒壊で帰宅困難になった通所利用者2人の5人を受け入れる体制をつくる」という想定だ。
突然、電気が消え、受講者は用意されたランタンを持ち出したり、ヘッドライトの付いたヘルメットをかぶったり。とにかく明かりを確保した。
段ボールでベッドを作り、プライバシーを守る簡易トイレを2基設置した。車いすの通行に配慮したレイアウトを考え、パーティションで間仕切りした。
「ランタンだと片手がふさがってしまう。ヘッドライトだと両手が使える」と受講者。体験型の研修ならではの、気付きがある。
担架で運ぶ
「痛い、痛い」
声の方に受講者が走る。右足を骨折したらしい。担架を用意して負傷者を乗せる。
添え木がないので、毛布を板状に畳んで右足の内側に添える。4本のひもを担架の下に通して、体ごと担架に固定する。
救護所へ運ぶ。うめく負傷者、受講者の迫真の演技だ。
思わず顔を近づけて「大丈夫ですよ」と励ます受講者も。研修スタッフは、振り返りの時間に言った。
「負傷者の心に寄り添うことも、現場ではとても大切になります」
備えよ常に
突然の大地震で、職員にも負傷者が出る。交通網が遮断され、非番の職員も出勤できない。電気、ガス、水道が止まる。看護師は大丈夫か。医師は……。
「どの役割が欠員になってしまったのか。例えば、管理者なのか看護師なのか。その場合の代行を決め、代行できる人をつくっているか」「指揮命令系統は決定しているか。事業休止の是非は判断できるか。地図、見取り図、ホワイトボード、電源、照明は用意してあるか」
渡嘉敷さんやスタッフの指摘が続く。
従事者部会は全種別の社会福祉法人の従事者で構成する、全国でも例のない組織だ。
会員は介護や保育など種別を越えた第一線で働いている。
「振り返りで、他の施設のBCPが参考になった」「何が必要で、何が準備できているのか。BCPの重要性を認識した」「人のやりくりの難しさを痛感した」
受講生は「備えよ常に」を胸に刻んだ。
渡嘉敷さんは言った。「南海トラフ級の巨大地震だと、何よりも、みなさん自身の命を守ることが大事になります」。