ベビーバスケット~賛育会の挑戦(1) 産・小児科病院の特性生かす
2025年09月08日 福祉新聞編集部
東京都墨田区に本部がある社会福祉法人賛育会(平野昭宏理事長)は3月末から、親が育てられない乳児を匿名で預かる「ベビーバスケット」(赤ちゃんポスト)を開始した。誕生から100年を超える歴史ある法人が、なぜこうした取り組みを始めたのか。立ち上げの経緯も含めた背景を追った。
法律に位置付けなし
JR東京駅から電車と徒歩で約20分。賛育会病院(墨田区)の裏口にある緑色のランプがベビーバスケットへの目印だ。外扉から入り「生後4週間以内の赤ちゃんを匿名で預けることができます」と書かれた扉をさらに開くと、室内にはベージュ色の小さなバスケットが置かれている。
赤ちゃんポストは、さまざまな事情で育てられない親が匿名で乳児を預けることができる仕組み。2007年5月に医療法人聖粒会(熊本)の慈恵病院が全国で初めて設置し、賛育会は2例目となる。しかし、この取り組みを規定する法律はないのが現状だ。
賛育会病院は、入院や高度な手術が必要な中重症患者に対して24時間365日体制で対応する2次救急の医療機関。産科や新生児・小児科だけでも18人ほどの医師がおり、リスクの高い胎児や新生児を受け入れる都の地域周産期母子医療センターの機能も併せ持っている。
ベビーバスケットに乳児が預けられるとすぐに保護され、当直の医師や看護師、助産師らが健康状態などを調べる。同時に、所管の東京都江東児童相談所と本所警察署へ連絡。乳児の身元が判明すれば保護者が住む地域の児相へと移管される。
身元が分からなければ同児相が関わることになる。戸籍法上は棄児扱いとなり、墨田区が名前をつけ、新しく戸籍も作る。
その後は児童福祉法に基づいて支援が進む。それぞれケースワークを行い、乳児院への入所や里親への委託などを経て、特別養子縁組につなげる。
理事会決定は22年
ベビーバスケットの立ち上げまでには2年以上を費やした。
賛育会が理事会で設置を決定したのは22年10月。構想自体は19年ごろからあったが、新型コロナウイルスによる影響で議論が中断していたという。
立ち上げに向けては、特命事業として「赤ちゃんのいのちを守るプロジェクト推進会議」(PJ)を設置。メンバーには病院長や常務理事、看護部長、病院事務部長、相談員、事務局など約10人が名を連ねた。
その中で、PJの事務局長を務めたのが大江浩さんだ。大江事務局長は国際協力支援のキャリアを経て、同じ墨田区の社会福祉法人興望館で常務理事を務めた経験を持つ。キリスト教によるセツルメント活動の経験を踏まえ、行政との交渉や法人内の調整を担った。
大江事務局長は「ベビーバスケットは、乳児の遺棄などにつながる悲劇を防ぐ緊急かつ最終的な手段だ」と強調。「賛育会としてはソーシャルワークの視点を持って、保健医療と地域福祉の協働によるワンチームで取り組んでいる」と説明する。
4月以降、実際にベビーバスケットに乳児の預け入れもあった。大江事務局長は「設置までに十分な準備をしたが、それでも想定外のことが起きる可能性もある。3月末からずっと緊張状態が続いている」と話す。