産学官民でフレイル予防 健康寿命3年延伸目指す〈堺市〉

2022年0823 福祉新聞編集部
堺市家原寺地区の住民を対象に行った説明会(6月)

 人口約82万人の大阪府堺市で、堺市立病院機構(門田守人理事長)が統括する産学官民一体のフレイル(虚弱化)予防事業が始動した。要介護状態に至る前段階で改善し、健康寿命の3歳延伸を目標としている。主に65歳以上の住民を中心に毎年調査。経年のデータ解析を行い、分かりやすく本人に知らせる。「コロナフレイル」の実態も解明する。厚生労働省の補助金事業として採択され、全国モデルを目指している。

 

 8月12日夕、同市西区の市立総合医療センター。第1回関係者会議が開かれ、大阪大谷大、関西大などの学者、市、保健センター、市社会福祉協議会の担当者らが参加。疾病予防管理センター長を務める花房俊昭医師が、趣旨を説明した。

 

 「日本の健康寿命は、平均寿命より10年程度短い。人の世話になる期間(要介護、要支援)が10年近くある。この改善に、フレイル予防が重要です」

 

 厚労省の調査(2019年時点)によると、日本人男性は平均寿命81・41年に対して健康寿命は72・68年。女性は87・45年に対して75・38年。男性で9年、女性で12年の要介護・要支援の期間が必要とみられている。

 

 花房医師は、日本医学会長でもある門田理事長の「予防」を重視する考え方にも触れて続けた。

 

 「病院は従来、病院で待って治療する、というスタンスだったが、介護に至らないうちの予防こそ日本の進むべき道。待つのではなく、地域に出ていってフレイルを予防する。産学官民で進めるという、遠大な理想を掲げての事業です」

 

 このあと、石坂敏彦副院長が、第一歩として、医療センター周辺の同市家原寺地区の住民100人を対象とした調査開始を報告。現時点で約70人の参加を得て「支援前測定会」を行い、血液、口腔機能、食事(栄養状態)、認知、身体測定(筋力など)、薬剤の服用などを調べたことを明らかにした。

 

 自宅でできる「日常推奨行動」をまとめた動画(運動、食事、認知、口腔機能)を製作。動画をチェックしながら「できたかどうか」を、日々記録してもらい、万歩計も提供する。行動範囲が狭まる「コロナフレイル」が進む中、「ウィズコロナのフレイル予防」の知見も得ていく、とした。

 

 会議では、事業の主役は住民であり、地域福祉の推進にもつながる「元気な街づくり」が主目的であることが、何度も共有された。

 

 今後は、毎年1回、血液検査や身体測定などを実施。中間報告会や啓発イベントを順次、通年で行い、経時の検証結果を住民に知らせる。

 

 これまでのフレイル予防の調査研究は、アンケートが主流で、血液検査などの科学的エビデンス(証拠)を経年的に調べて積み重ねた研究は、ほとんどない。口腔機能と栄養状態の関連や、薬剤服用と転倒などの関連調査も極めて少ない。

 

 こうした点でも、「オール堺」のシステマティックな取り組みが注目される。

 

 堺市立病院機構の池之内寬一・法人本部長は「人口の多い政令指定都市が、全市を挙げて取り組む意義は大きい。今後、堺市全域に広げたい。そして、近畿から日本を変える。そんな気持ちで取り組んでいく」と締めくくった。

 

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