就労移行事業所の自己表現講座で就活力向上 開設2年、4人が就労(兵庫)

2023年0725 福祉新聞編集部
別役さん(左)の指導を受ける利用者たち

 社会福祉法人尚紫会(高野朝光理事長)の就労移行支援事業所「むれ咲き」(兵庫県姫路市)が昨秋から、劇作家で演劇教育家の別役慎司さんを迎えて月2回の自己表現講座を始めた。すでに4人が民間企業に就職し、2人が就職準備中だ。

 

 高齢者介護施設を運営してきた尚紫会が、むれ咲きを開設したのは、2021年5月。こどもに障害がある職員の意向が、きっかけだった。

 

 就労移行支援事業所は精神障害を抱える人が民間企業に就職できるよう支援する授業を平日の毎日行う施設で、高野理事長が設置を決めた。

 

 開設当初は運営方針が定まらなかったが、姫路女学院中学で講師をしている別役さんの協力を得て、昨秋から月2回のペースで自己表現講座を実施。利用者の評判もよく、カリキュラムに柱ができた。

 

 2時間にわたる講座では、別役さんが表現方法や面接での対応などについて指導。14日に行われた講座には利用者5人と体験利用1人の計6人が参加して、体をリラックスさせる体操や発声練習から始めた。

 

 その後、心の中にあるものを描いて発表する取り組みを実施。自分の名前を言いよどんでいた体験利用中の女性も、車の絵を描いて「この車で神社に行くのが好きです」などと話した。絵の後には、即興劇を実施。SNSオフ会での初対面を前提としたやりとりでは、活発に演じる姿が見られた。

 

 むれ咲きの利用者は現在6人だが、すでに4人が就職した。それぞれクリーニング工場、薬局店の品出し係、老人福祉施設、発泡プラスチックの生産工場で働いている。

 

 昨年2月から利用している自閉症の男性(28)は「最初はしゃべることができなかったが、何回も自己表現講座を受けるうちに慣れてきて人前でしゃべれるようになった」。昨年4月から参加しているADHD(注意欠陥多動性障害)の男性(19)は「自分の意見をはっきり言えるようになった」と、就職活動への手ごたえを感じている。

 

 別役さんは、東京を拠点に活動している。

 

 「演劇の手法を使った訓練は、人前でのプレゼン能力の向上や緊張緩和に確実に役立つ」と指摘。高野理事長も「さまざまな障害を抱え、人前で声が出せない人もいるが、この講座を通じて声を出せるようになり、表現力も身についていく」と高く評価。「22年度の事業規模は1200万円強。経営は厳しいが、就職実績を増やして黒字転換させたい」と話している。

 

 就労移行支援事業所=障害者総合支援法に基づき、ADHDやASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)などの発達障害、統合失調症などの障害者らの就職を支援する事業所。民間企業への就職を目指し、ビジネスマナーやスキルを教え、職場見学やトライアル雇用も行う。利用期間には2年の上限がある。

 

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