孤独・孤立支援こそ必要 救護施設が24時間の相談対応

2022年0711 福祉新聞編集部
施設の外観

 社会福祉法人野の花学園(福田量理事長)が運営する救護施設「野の花」(福岡市)は、赤い羽根福祉基金を活用して、退所した人のフォローアップ支援に取り組んだ。2021年度に退所率が100%を超える一方で、継続して地域で暮らせる人は少ないのが現状だという。担当者は「退所支援は孤独・孤立支援でもある」と話す。

突然の電話

 「妊娠した」――。事業の責任者を務めた野の花の松田孝幸さんは昨年、退所した20代女性からこんな電話を受けて驚いた。

 

 

 もともと女性は両親との折り合いが悪く、軽度の知的障害もあった。そこで他の市で生活保護を申請した後、野の花に措置された。1年ほど暮らしたが、突然退所して連絡は途絶えていた。

 

 「ちょっと話を聞かせてくれんね」。松田さんが呼び掛けると、数日後、女性はパートナーの男性と顔を見せた。

 

 女性は妊娠後の手続きなどが分からず、不安を抱えていた。また男性は既婚者で、軽度の知的障害もあった。

 

 そこで松田さんは、個別支援計画を策定した。女性職員が定期的に訪問する体制を確立。出産後も、女性の障害福祉サービスや子どもの保育所などの手続きをサポートした。

 

 出産後、女性は「サポートがなかったら生きられなかった」と話したという。女性は子どもと一時預かり事業なども利用しながら地域で暮らしている。

高い退所率

 野の花はもともと、福岡市が運営する救護施設を引き継ぐ形で17年に誕生した。定員は50人で女性が5分の1ほどを占める。

 

 民設民営後は、特に退所支援に力を入れてきた。21年度の退所者数は34人ほどだったが、20年は56人と定員数以上の退所者を出すなど、驚異の100%超えを達成した。

 

 ただ課題も少なくなかった。「半数程度が離職や入院、犯罪などにより地域生活を維持できないのが現状。孤独・孤立の支援こそが必要だった」と松田さんは説明する。

 

 そのため基金のフォローアップ支援では、24時間対応の相談体制を柱に据えた。居宅訪問や施設での食事提供も実施したという。

 

 中には施設とのつながりを拒否する退所者もいる。

 

 そのため並行して、炊き出しを行う事業をもう一つの柱に据えた。社会福祉法人慈愛会と、定期的に食事提供や相談窓口を案内。松田さんは「支援が必要なときに、すぐつながれる体制づくりが狙い」と語る。

 

 基金による支援は3年で計40人に上った。今後は松田さんのような特定の担当者を置かず、施設全体で対応する方針。炊き出しは継続する。

 

 小野真一郎・野の花施設長は「改めて社会福祉法人の役割を考えさせられた。構築できた信頼関係をさらに発展できれば」と話している。

 

野の花学園=障害のある子の5人の親が1959年に私立の訓練施設を設立したのが始まり。現在も障害福祉サービスを中心に市内外に34事業所を運営している。利用者は約1000人、職員は400人。

 

赤い羽根福祉基金「救護施設等のセーフティネット機能強化助成事業」=福祉施設の保険を扱う福祉保険サービスが中央共同募金会に寄付して19年度に立ち上げた。救護施設を対象に、最大3年にわたって1団体年最大1000万円を助成。16団体が採択された。

 

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