その人らしい生活を考える~新たな活動への挑戦〈高齢者のリハビリ 79回〉
2024年02月16日 福祉新聞編集部私は回復期リハビリテーション病院で高齢者のリハビリに関わる中で「リハビリを大きく捉えれば『社会参加』を支援することであり、その人の生きがいを支援していることにつながる」と考えるようになりました。
今回はその「社会参加」を意識して支援し、社会復帰を果たしたエピソードと高齢者の社会参加の背景について紹介します。
高年齢者雇用安定法
「高年齢者雇用安定法」は、働く意欲がある高齢者にも社会保障の支え手として活躍してもらうための法律です。2021年4月から、高齢者が活躍できる環境の整備を目的とし、企業に対する就業機会確保の努力義務が65歳から70歳まで引き上げられました。
なぜ日本の高齢者は働き続けるのか。働く理由は大きく二つあるとされています。一つは収入を得るため。そしてもう一つは生きがいを得るためです。働くことを社会参加として、社会とのつながりを目的として働き続ける高齢者もいます。
病気になり身体や脳に障害を抱えた高齢者も同様に、社会参加はとても重要な意義を持っています。障害を抱えると社会から孤立しやすい状況になってしまいます。たとえ、障害を抱えても個人の能力や経験を生かし、社会の中で充実した生活が送れるよう支援していきたいものです。
元板前さんの社会復帰
今回紹介するのは現在もリハビリを継続しながら仕事を続けている70歳代の脳卒中罹患りかん後の患者のエピソードです。
入院時の障害は右まひ、失語症を呈していました。発症前は板前として働いており、職場復帰を目標としていました。入院して約半年、リハビリを継続しましたが、失語と右手の巧緻こうち性は回復せず、板前としての職場復帰は断念せざるを得ませんでした。
50年以上も板前として仕事を続けてきた患者にとって仕事を失うという喪失感は退院後の生活に大きな影響を及ぼすと考えました。患者は退院後も仕事をしたいという意欲が強く、どのような仕事であれば可能か、多職種を交えて話し合いを重ねました。結果、板前の経験を生かし、調理補助の求人に応募しました。失語があるため面接対応が懸念されましたが、板前としての経験と知識が考慮され採用となりました。退院して5年経過した現在も、当院にリハビリ通院しながら仕事を続けています。
能力を生かす
生きがいは自分の存在に価値があると感じ幸福感を伴うもので、自己実現と意欲、生活の充実感など、自己の感情を統合した心の働きです。社会参加活動はその人の生きがいの向上に寄与しやすいと考えられています。この事例のように高齢者の持つ経験や知識、能力などを生かし、退院後の社会参加活動支援はリハビリに求められる大切な役割となっています。
施設に入居している人は、健康的な問題、社会的背景などさまざまな理由で入居していると思います。そのひと個人の経験や知識、能力を大切にした作業やレクリエーションなどの活動を提供し、生き生きした生活につながるような支援を考えていきましょう。
筆者=星崇 赤羽リハビリテーション病院 脳卒中リハ看護認定看護師
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長