知っておきたい高齢者の健康状態~機能の低下への対応〈高齢者のリハビリ 75回〉

2024年0119 福祉新聞編集部

高齢者のリハビリを進めていくことは、健康を支えることにつながります。高齢者を理解する上で重要な身体面、精神面、社会面の変化をお伝えします。

身体的変化

高齢者は身体機能や予備能力低下といった変化に加え、複数の疾患を抱えており、合併症を起こしやすい特徴があります。また、筋力の低下や骨格の変化、疾患による身体機能の低下以外にも、感覚機能の低下(温度感覚、味覚、口渇や皮膚感覚を含む)により体温調節が難しくなることや、塩分過多、脱水になりやすいなど、気付かない間に症状が悪化することもあります。その上、症状や訴えが曖昧と言われています。そのため、表情や肌の乾燥、浮腫など、普段から観察を行い、異変に気付くことが大切です。

社会的変化

死別や社会的立場の喪失といったライフイベントは、身体機能の低下なども関係し、孤独感や生きがいの喪失に影響するだけではなく、頑固=保守的傾向が強くなるといった性格にも影響します。記憶力の低下などから慣れた環境に生活圏が移行し、活動範囲が限定されます。介護施設など新たな環境での生活を負担と感じ、人との関わりが減る上、身近に支援者がいないことでの社会的孤立も問題となってきています。

 

そのため、生活歴を知り、その人の時間の流れや居場所を大切にすること、反面、一人でない集団生活の楽しさを見いだすこと、食事や排せつ、リハビリにおいても他者に介助される羞恥心を考慮し、尊厳を傷つけない言葉掛け、可能なことは自身で行ってもらうことなど、介護者の関わりが生活の質を維持するためにも重要です。

精神的変化

知識や経験などの記憶は保持されやすく、経験と結びついた判断力は保持されると言われています。しかし、記銘力の低下や物を思い出す想起力の低下により、その場で物事を判断できず、返答できないことから、会話が苦痛と感じる高齢者もいます。

 

また、短期記憶の低下から新しいことに適応できず、周囲の人や物への不信や不安となり、被害妄想や拒否として現れます。これらの要因が複合的に影響し、精神機能の低下へつながります。そのため、時間がかかっても本人のやり方やペースを守ること、長年の習慣を継続することが大切です。また、慣れた環境をできるだけ変えないことや、大切にしている衣類を身に着けること、物を同じ場所に置いておくことなど、安心感を与える支援が必要とされています。

いつも通りの生活を

高齢者にとっての健康は、集団生活で定着した「いつも通りの生活を送れること」という言葉に近いかもしれません。その健康状態を阻害する要因に早く気が付けるのは、普段から高齢者と関わる介護の皆さんではないかと思います。

 

「何かいつもと違う」「今日は調子悪い」といった言葉をよく聞きますが、この言葉の裏には、言葉が出にくい、足が痛いなどが含まれていることも少なくありませんし、人に迷惑をかけないようにと症状を伝えないこともあります。

 

忙しい毎日ですが、介護する側の「いつもと違う」という感覚は生活の質や健康を維持する上で重要ですし、リハビリを継続できることにつながります。これからも三つの側面の変化の対応を工夫し、入所している皆さんの笑顔を大切にしていきましょう。

 

筆者=臼見史恵 八千代リハビリテーション病院 老人看護専門看護師

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長