立って何かをすること〈高齢者のリハビリ 68回〉

2023年1117 福祉新聞編集部

私が担当した80代男性の話です。入院前は独居生活で、1人で歩ける人でした。趣味はグラウンドゴルフ。週5回、近所の公園まで行って練習していました。グランドゴルフは全国大会に行くほどのレベルで、次の大会に向けて練習されている最中での入院でした。

 

入院中、腰部脊柱管狭窄症による両足と腰の痛みが強く出現し、一人歩きができなくなりました。トイレに行くにも看護師を呼び、車いすを押してもらい、トイレの中でも介助が必要でした。今まで1人で何でもできていた人なので、トイレ介助に対して抵抗があり、「1人でトイレができるようになりたい」と要望がありました。

 

トイレには多くの動きが伴います。車いすの人がトイレで用を足す場合は、車いすから立ち、お尻の向きを便座の方に変え、ズボンを下げ、便座に座り、排せつします。その後はお尻を拭き、便座から立ち、ズボンを上げ、お尻の向きを車いすの方に変え、車いすに座ります。これらの動きに対して、手すりにつかまり立ち、座ること、お尻を拭くことはできました。しかし、自力で便座に乗り移ることができず、お尻を回してもらいました。また、立っている時に手すりから手が離せず、ズボンの上げ下ろしを介助してもらいました。

 

人は歩く前に「立って何かをする」こともあれば、座って何かをすることもあります。トイレも同じで、立って乗り移りをして、立ってズボンを上げ下ろしして、座ってお尻を拭きます。その「立って何かをする」ことが、難しかったのです。

 

立って何かをするには(1)何もつかまらないで立てること(2)立った状態で手を動かしバランスが崩れないようにすること――などが必要です。それには、身体を支える足の力はあるか、足の感覚はあるか、足は動くか、痛みはないかなどの確認をします。この人は身体を支える力が弱く、痛みが強かったのです。痛みに対して鎮痛剤が処方され、痛みが多少緩和されている中でリハビリをしました。

 

リハビリをすると介助量が少しずつ減り、トイレを1人ですることができました。ベッドからトイレまでの移動は車いすでしたが、「やっとトイレが1人でできる」と喜ばれました。さらに、歩くリハビリも行い、最終的には一人歩きができるようになり、グラウンドゴルフもできる状態で退院しました。

 

立って何かができるようになると、トイレ以外にも顔を洗う、歯磨きをする、ズボンを着替える、お風呂に入るなど、日常生活における行動範囲が広がります。普段、座っている時間が長くなると、足を使う機会が減り、身体を支える足の力が減ります。トイレは日常生活の中でも活動回数としては多い行為です。トイレの動きは上記で紹介したように多くの動きが伴い、トイレの回数が多いほど足の力を使い活動量が増えます。

 

トイレの訴えが多い人に対して、時には「さっきトイレに連れて行ったのに」と思うかもしれません。しかし、トイレの訴えこそが立って何かができる良い機会であり、その人の活動性維持・向上につながると考えてみてはいかがでしょうか。

 

筆者=福永梨香 福岡和白病院

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長