福祉新聞フォーラム「高齢者のリハビリ実践講座」開催報告

2023年1008 福祉新聞編集部
ステージを囲んで参加者も一緒にストレッチをする場面も

9月27~29日に第8回福祉新聞フォーラム「高齢者のリハ実践講座~生活を支えるリハの実際」を開催しました。連載中の「高齢者のリハビリ」を監修する令和健康科学大リハビリテーション学部長・教授、稲川利光氏の講義や「認知症の予防と対応」などをテーマにした実践講座で、学びを介護現場で役立ててもらう機会としました。フォーラムの内容を紹介します。

 

 

生活を支えるリハビリの実際「姿勢が導く食と排せつ」

生活を支えるリハビリを考える上で、正しい姿勢で座ることがとても重要です。食べ物を飲み込む力に大きく影響するだけでなく、排せつ時の「踏ん張り」にも関係します。

 

食事を取るとき、足を床ではなく、車いすのフットレストに置いたままの人を病院や施設で見かけます。これは良くありません。

 

床に足を着けて背筋を伸ばすことが食事を取るときの基本。フットレストに置いたままだと骨盤が後ろに倒れ、背中は丸くなり、飲み込む力が弱くなります。

 

テーブルが高すぎるのも良くありません。座ったときに少し前かがみにすること、食事を受け身ではなく「自分で食べよう」と意欲を持つことが重要です。

 

おいしいものをおいしく食べるには排せつケアも重要で、座ったときの姿勢が関係します。前かがみだと、便を出そうと力を入れる方向と肛門管の軸が合わさって出やすくなります。

 

便秘を防ぐことはリハビリの基本であり、ケアする側がチームで関わることが大切です。便の性状や量、回数や頻度に関心を持ち、食事や内服薬には常に注意を払いたいものです。

 

フレイル(虚弱)を予防するには筋肉量の増加が欠かせません。生活向上は「疾患予防」「栄養管理」と並んで運動の要素を生活に取り入れることで成り立ちます。笑いや感動といった「心の栄養」も忘れてはなりません。

あなたの笑顔は私の元気!「利用者と家族の立場で」

急性期、回復期リハビリを経過した後、非常に長い維持期リハビリの生活があることに思いをはせながら、今関わっている目の前の人にどう接していくかが大きな課題です。

 

リハビリの目的はその人が希望する生活を広げることです。実現に向けて専門家は家族、友人、訪問リハビリのスタッフら利用者を取り巻く人たちと関わりながら進めていくことが大事です。

 

訓練は大切でおろそかにはできないですが、できないことの訓練を繰り返すことより、したいことがかなう、楽しいことができる環境を整えることも大切です。そのためには利用者に話を聞かせてもらうこと、傾聴する姿勢が大切で、話しやすい環境をどうつくるかがリハビリや介護の要になります。

 

医療者、介護者の一方的な価値観を考え直すことも必要です。本人のしたいことと、看護、介護、リハビリ職員らの目指す方向性を一致させることが大切です。そのためには他職種が持つ価値観や考え方を知る謙虚さと柔軟性は必須になりますし、何より大切なのは利用者とその家族の立場に立って考えていける思考と愛情だと思います。

 

リハビリは急性期、回復期、維持期の一方的な流れでなく、急性期を過ぎた人が維持期に移行したり、維持期で在宅の人が急性期に戻ったり、地域の中で輪を描いているイメージです。地域でこの輪をどう育んでいくかが、これからの時代、非常に重要になってきます。

 


ステージに車いす

講義の後、ステージに並んだ車いすを操作してみる参加者たち

 

初日の27日は三つの講義があった。第1講義はリハビリテーション専門医の稲川氏が、正しい座位姿勢が嚥下や排せつをスムーズにすることについて解説した。嚥下能力の違いを見せるため、飲み込んだものが喉を通る瞬間をX線で撮影した動画も交えながら説明した。

 

第2講義は理学療法士がシーティングとADLについて、車いすを「標準型」「モジュラー型」「ティルト・リクライニング型」の3台を並べ、それぞれの特徴を説明。受講者は講師をコの字に囲んで聴講した。

 

第3講義は、施設でできる運動の例を理学療法士が実演。スクワットやストレッチの留意点を説明し、「運動は継続が重要です」と強調した。

介護ベッドを使って

28日の講義では第一線で働く理学療法士や作業療法士、言語聴覚士らがベッドや車いすを使いながら説明した。

 

社会福祉法人宝山寺福祉事業団(奈良県)が運営する総合施設やすらぎの杜延寿で、機能訓練指導員として働く小羽田佳子さんは、「日々の業務に生かせるヒントはないかと、フォーラムに参加した。特に嚥下やシーティングに関する講義が参考になった」と言う。

 

社会福祉法人野の花会(鹿児島県)が運営する施設で理学療法士をしている園田烈也さんは、利用者の褥瘡を軽減するためのシーティングを学びたいと参加。「疾患の予防と運動、栄養管理を大切にする〝生活向上の環〟という考え方が腑ふに落ちた」と語った。

手製の福祉用具紹介

最終日の29日は稲川氏を含めて2人の講師が登壇。「福祉用具のあれこれ」では、創意工夫を凝らした手製の福祉用具が並んだ。

 

車いす座面シートのたわみを平らにする「船底クッション」を作ったことをきっかけに、100円ショップやホームセンターの商品で多くの福祉用具を手作りしていることを理学療法士が紹介。使い方の実演や作り方も説明すると、来場者は熱心に聞き入った。

 

最終講義では稲川氏がリハビリへの思いや心構えを伝えた。医療、介護職員が専門性を追求するあまり、利用者の願いをおろそかにしてしまうことに警鐘を鳴らし、他職種と連携しながら対応することの重要性を強調した。