アートで地域共生を 4年プロジェクトに着手〈来島会・愛媛〉

2025年1207 福祉新聞編集部
巨大なサッカーボードゲーム=写真はいずれも来島会提供

障害のある人も、ない人も一緒に楽しもう――。愛媛県今治市の社会福祉法人来島会(越智清仁理事長)は先月、地域共生を掲げ、4年がかりのプロジェクトに着手した。現代アートをツールに、名付けて「出会いの種を運ぶ『イマバリ・パラビエンナーレ』」。

今治港にある市の多目的施設・みなと交流センター「はーばりー」で先月1、2日にプレイベントが行われた。Jリーグ「FC今治」(J2)のホームタウンの同市に「巨大サッカーボードゲーム」(縦6メートル、横3・5メートル)がお目見え。「誰もが一緒に遊ぶ」をコンセプトに美術家、土谷享さん(高知県佐川町)が制作した。同型の作品は金沢21世紀美術館(金沢市)にコレクションされているほか、全国の芸術祭などで展示出品されているが、2日間に障害者や家族、市民ら約200人が訪れ、両サイドから突き出た金属製の長い12本の〝スティック〟を最大12人がかりで押したり引いたり回したりして楽しく交流した。

その初日。ボード上で「体験活動を懸け橋とした協働する地域社会」をテーマにシンポジウムを開催。「共助のコミュニティーづくり」を掲げてサッカークラブ事業などを展開する「今治.夢スポーツ」の岡田武史会長(元サッカー日本代表監督)は「人間は一人では生きられない。違いを間違いとせず、共通の目的のもとで認め合う。サッカーでも組織でもすべての人が同じ考えを持つ必要はない」「スポーツには勝ち負けがある。でも、アートは人を分断しない」と述べ、違いを受け入れる大切さを強調した。

また、障害者文化芸術活動推進法(2018年施行)に基づく事業を展開する厚生労働省の森真理子障害者文化芸術計画推進官は「アートには上下や横の垣根を超え、みんなが一つの場を共有できる力があります。そこに行くと楽しい、その期待が現場を支えてきた」とした上で、「さまざまな社会課題がある中、福祉とアートが出合うことで新たな価値を投げ掛ける事例が数多く生まれている」とした。

さらに、パネリストの小松田儀貞さん(秋田県立大准教授=社会学)が「現場から生まれる文化づくりは共生社会への第一歩」と、越智理事長も「立場を超えてつながれ、体感し関わること自体もアート」と、それぞれ表現活動の役割を力説した。

来島会では28年度までの長期プロジェクトとしてイマバリ・パラビエンナーレを計画。今月から来年2月にかけ、土谷さんや詩人の上田假奈代さんらを講師に、福祉やケアの現場で働く人や地域おこしに関心のある人を対象に4回の文化講座を開く。5月には法人の就労継続支援B型事業所「麦の穂」で、従来廃棄されていた摘果シャインマスカットなど地域の物産を素材に、アーティストの磯崎道佳さんと共にパン作りをする「カンパーニュプロジェクト」などを予定している。

27年度以降も「居場所でもある相談場所」づくりなどを計画。プロジェクト責任者の三幡大輔来島会次長は「アートを触媒にして地域に『持ちつ持たれつ』の共生文化を根付かせ、誰もが住みやすい、住みたいと思う地域にしていけたら」と話している。

なお、愛媛県では28年に国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭が予定され、基本構想を目下検討中だ。

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