養護施設の児童が音楽劇 チケット代は基金に寄付(阪南福祉事業会、大阪)

2024年1005 福祉新聞編集部
左からキジっ子、扇を掲げる桃太郎、犬吉、猿次郎

社会福祉法人阪南福祉事業会(永野孝男理事長)が主催する「にじいろ〝夢〟コンサート」が9月7日、大阪府岸和田市の南海浪切ホールで開かれた。約800人のチケット収入は、児童養護施設から巣立つこどもたちをサポートする「にじいろ〝夢〟基金」に寄付された。

第1部は音楽劇「桃太郎と鬼」。出演は、法人の児童養護施設「岸和田学園」「あおぞら」「あんだんて」の約100人のこどもたちだ。

童話「桃太郎」を基に脚本を書き、演技を指導したのは、岸和田学園の卒園生で舞台俳優の門戸竜二さん。第2部では「和太鼓・ダンス・アンサンブル」も行われた。

桃太郎のおばあさんの声は、女優の三林京子さん。おじいさんの声は、落語家の露の団四郎さん。

永野良子総合園長は「本物(プロ)の素晴らしさをこどもたちに知ってもらいたかった」と話す。

シナリオは、こうだ。

「桃から生まれた人間なんていない」

桃太郎は、友だちから「捨て子」と言われた。自分の境遇に悩むが、「妖しっ子」(配役名)という心の声で、「人間に役立つ人になる」と生き抜く決意をする。

鬼ヶ島に向かった桃太郎。そこで待っていた鬼の大将「温う羅ら」と妻の「羽衣」は、かつては人間。やむを得ず桃太郎を捨てた実の親だった……。

フィナーレは、NHKの朝ドラ「ブギウギ」の圧巻のステージ。トランペット、ドラム、ギター、ベースなどで初めてのジャズ。喝采を浴びた。

良子先生は言った。  「過去を切り離して今を生きようとする桃太郎を、こどもたちが舞台でつくり上げた。こどもたちこそが、自身の過去を乗り越えることができたのではないでしょうか」

「正夢」への一里塚

本番2日前の通し稽古。前日の稽古で「もうできない」と泣いた妹をかばう姉がいた。姉はキジっ子(キジ)役の高校生だ。中学生の妹が演じる猿次郎(サル)の踊りの振りを妹に問い、代役になって踊り始めた。

ほかのこどもたちも、抜けた猿次郎が、さもそこにいるかのように稽古を続けた。すると、妹も、演技を始めた。みんなの自然な優しさが猿次郎を動かした。

桃太郎役の中学3年の女生徒。「ピーナッツ、どうぞ」と、通し稽古の合間にダッシュ。お茶だけで見学していたこちらへの気遣いだった。

1粒だけ。でも、人生で一番おいしいピーナッツになった。

本番前日のリハーサル。今度はキジっ子が泣きじゃくった。「歌えない」。小学2年の男児が、学校で骨折した知らせも入ってきた。

不安の中で迎えた本番。だが、見事な舞台だった。キジっ子は本番直前に、良子先生に手紙を託していた。

<今年で4回目の出演……いつも隣にいてくれて、優しく抱きしめて、落ち着かせてくれたおかげで、しんどい時も立ち直ることができました。私が輝ける場所と出会わせてくれて、感謝の気持ちでいっぱいです>

「自己肯定感こそ、生きる力を培う。舞台は、それを可能にする」

永野理事長の思いにも通じる文面だ。

骨折した車いすの男児に、「抱っこして出演しようか」。だが、楽屋で1人、モニターを見ながら泣き続けた。きっと、来年につながる涙だ。

本番までの道のり。それは、こどもたちの「にじいろの夢」が将来、「正夢」になる一里塚であるに違いない。