【関西学院大・下】広義の福祉へウイング広げる

2026年0414 福祉新聞編集部

2008(平成20)年に創設された人間福祉学部は、今年12月10日に15周年記念大会を行う。この15年間は、社会福祉や人々の日々の生活にとってどういう時代であったか。
引きこもり、いじめ、虐待、DV、拡大自死、各種のハラスメント、ケアラー問題、薬物乱用等々枚挙にいとまがない。
また、2000年に始まった介護保険制度はその後、何度も見直されてきた。
そうした中で、関学の人間福祉学部は苦しみながらも健闘している。社会福祉の概念を思い切って拡大し、3学科による学際的な教育を展開。広義の社会福祉を学ぶことで社会のあらゆる分野で活躍できる人間を育成しようとしている。もちろん、伝統的な福祉職場との関係も70年に及ぶ実習教育のなかで強い絆で結ばれている。
特に関西地域の医療現場では、多くの卒業生がソーシャルワーカー(MSW、PSW)として活躍している。

中道基夫院長の思い
中道基夫院長に、インタビューした。
「関学の教育、特に社会事業・社会福祉教育は伝統的に座学中心ではありません。学んだことは、必ず実践に結びつけるという伝統があります」
「自分の人生だけでなく他者の人生も大事にする精神こそ関学の〈Mastery for Service〉精神です。この精神は時代と共に多様に解釈されていますが、だからこそ130年以上に及ぶ関西学院の教育を導いてこれたのでしょう」
「現代社会の最大の課題の一つは、社会的孤立からの解放です。これはすべての学問分野の共通課題でもあります。従って三つのキャンパスに14の学部と研究科をもち、2万5000人が学ぶ関学は、この共通課題にみんなで取り組もうとしています。その時、社会福祉のリエゾンワーク(つなぎ機能)が果たす役割は大きいと思います」

中道基夫院長

活躍する卒業生
関学のキリスト教主義教育は、常にその時代の重要な社会的課題に多角的に積極的に取り組む実践的な教育である。中でも社会福祉を学んだ卒業生はいろいろな分野で活躍している。
神戸元町のアジアン食堂バルSALA店長の黒田尚子さんは、社会起業学科1期生。SALAは主としてアジア出身の人々の悩みを語り合う場であり、働く場でもある。
「SNSではなく、生の声で人々をつないでいくことに心を配っています。多様化の時代にあって、人々が率直に語り合える場は貴重です。スタッフも利用者(客)も多国籍、それに関学の現役の学生も多数参加しています」
児童養護施設、乳児院、児童家庭支援センターなどを運営している神戸真生塾の久山啓さんは、社会学部社会福祉学科を卒業した。
最初は、教員になって高校で野球部の指導をしたいと考えていた。しかし児童福祉施設での実習により、10年間その施設で働いて考えが変わった。
「神戸真生塾では、主として地域の児童に関わっています。多様な取り組みが可能で、ソーシャルアクションにつながっています。こうした取り組みには先輩、後輩ソーシャルワーカーのネットワークが大いに力になっています。関学で学んだ自由の精神を大事にしています」
武庫川女子大で文学部心理・社会福祉学科の教授をしている倉石哲也さんは、法学部からの転部で社会学部社会福祉専攻へ。神戸大大学院で博士(学術)を取得し、大阪府立大の講師、助教授を経て武庫川女子大へ。家族問題や児童福祉が専門だ。
「国際的視野に立って共生社会の実現に貢献できるソーシャルワーカーを育てたいと考えています。中高生が社会福祉への興味や関心を持てるよう積極的に働き掛けたい」
この3人は関学での学びの時代や現在のフィールドは異なるが、日常性を大事にする共通のセンスを持っている。こうした卒業生が、さまざまな機会に在学生に働き掛けることが重要だろう。

関学の時計台

多様性時代の大学として
関学では戦前から多くの障害のある学生の教育に関わり、彼らは社会的に素晴らしい貢献をしてきた。現在もいろいろな障害のある学生の受け入れに熱心である。
しかし受け入れ数は学生総数の0・2%程度。障害のある学生や多国籍の留学生を受け入れることは、多様性時代の大学として重要な使命の一つと考えている。
関学の社会福祉教育の特徴はソーシャルワークにあるといわれているが、ミクロ、メゾ、マクロの分野で言うとメゾとマクロの分野にやや弱さがあると武田丈・人間福祉学部長はいう。
関学は全体としてSDGsにも熱心に取り組んでいるが、人間福祉学部においても3学科がより一層協力して国内外の社会的課題にさまざまな形で取り組む人たちの育成に力を入れようとしている。
社会福祉士、精神保健福祉士の資格取得を目指す学生への教育に力を入れてきたが、同時にそうした資格取得を望まない学生に対しても社会福祉を学ぶことで社会人(世界市民)として、また広い分野での職業人として、大いに活躍することを望んで教育のウイングを広げようとカリキュラムポリシーの改革に取り組んでいる。
当事者としていろいろな生きづらさを持つ学生に対しても、個別対応できる体制づくりに腐心している。
社会福祉を必要としない人間は一人もいない。グローバルにもローカルにもさまざまな分野や場面で多くの福祉課題が噴出する時代である。狭義の社会福祉からウイングを広げた広義の社会福祉へ飛び立つために、学部将来構想委員会での審議が始まっている。

(小國英夫)

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