精神障害支援で半世紀 地域に溶け込む〈新樹会・東京〉

2025年0601 福祉新聞編集部
畑にサヤエンドウの株を植える利用者たち

精神障害者に福祉の光を――。東京都調布市の社会福祉法人新樹会(石坂真一郎理事長)は就労継続支援B型事業所「創造農園」(諏訪智園長)を核に、半世紀を超える活動を続けてきた。母体の特定医療法人研精会と共に病院一体型で運営、近隣とのなじみも深めている。

緑の点在する住宅地の一角に研精会「東京さつきホスピタル」(精神科、小児科、内科など。3階建て156床)はある。外と隔てるフェンスはない。空中回廊でつながる創造農園側(3階建て)の1階カフェ「空と大地と」では近所の主婦がのんびり談笑し、ランチを楽しむ親子の姿がある。明るく開放的な雰囲気だ。

驚くのは、外から見えないが、広い職員室にズラリと並んだ机の数。「医療系(医師、看護師、作業療法士ら)、福祉系(生活相談員や就労支援担当職員ら)、事務系などのスタッフの動線をクロスさせ、各部署間のコミュニケーションが円滑になるよう工夫し、建築効率も加味した協働スペースです。使い勝手は悪くありません」と3代目の石坂理事長(42)。互いの声が届くほど近い。

創造農園のルーツは国内初の精神障害者授産施設「創造印刷」だ。研精会「山田病院」(精神科)を開設した初代理事長の故・山田禎一院長が「退院してもすぐ病院へ戻ってくる。働く場がないせい」と1972年、私財を投じて社会復帰の訓練施設として立ち上げた。

出版のほか、地元・調布市など近隣自治体の市報、議会報の印刷を受注し、赤字を出しながらも多くの当事者を自立させてきた。しかし、印刷業界のデジタル化とペーパーレス化、景気低迷、利用者の高齢化などを背景に、2017年ごろから畑作業やクリーニング、安全ベルトのバックル組み立て、施設内外の清掃、介護補助、そして19年にオープンしたカフェなど就労プログラムの多様化を進めている。

利用者は時に入院患者ともども近くの畑(約600平方メートル)やビニールハウスに入り、ソラマメやジャガイモ(メークイン、キタアカリ)、タマネギなどを栽培する。収穫物は利用者や職員の昼食の材料に。採れたてをカフェに出すと、あっという間に売り切れるという。

登録者は現在102人。「私が勤めだした8年前のほぼ3倍。工賃は約6万2000円、収支トントンです」と副理事長でもある諏訪園長は言う。精神科病院の長期にわたる社会的入院が問題になる一方、事業所の門をたたく精神障害者は全国的にも増えつつある。

それだけに法人は地域とのつながりに気を配ってきた。商店会との付き合いも年末年始のくじ引きに人を派遣するなど年々深まり、5月には病院の駐車場を会場に初の「そうめん流し大会」(商店会主催)を開き、住民と交流した。石坂理事長は「改善したら退院して普段の生活や仕事へ戻り、症状が出たら病院で治療すればよいのでは。精神科病院があって当たり前の地域をつくれたら」と意欲的だ。


新樹会 社会福祉法人として1972年に設立、「創造印刷」を始めた。2012年、B型事業所へ移行。山田病院が老朽化し、約200メートル離れた現在地に「東京さつきホスピタル」として移転・新築(20年)したのを機に「創造農園」へと名称変更した。農園、地域生活支援センターなど4事業5施設を運営し、職員約50人。病院や有料老人ホームなどを経営する研精会グループは23年、中国・上海市に介護施設を開いたほか、近く浙江省杭州市から高齢者福祉サービス事業を受託するという。また、兄弟法人として富山県滑川市に社会福祉法人周山会がある。