介護保険の危機顕在化 公費負担の引き上げを 増田雅暢 東京通信大名誉教授
2025年01月04日 福祉新聞編集部2025年は、介護保険が00年4月に実施後、25年目を迎える。
介護保険は、わが国の高齢者介護分野に大きな変革をもたらした。措置から契約へ、自立支援、介護の社会化、介護ビジネスなど、新しい仕組みや概念を吹き込んだ。要介護認定、ケアマネジャー、ケアプラン、ケアマネジメントといった介護保険とともに誕生した新たな資格や用語は、すっかり社会に定着した。
制度スタート時には約220万人の要支援・要介護認定者数は、今や約700万人(24年4月末)と3倍以上に増加、高齢者の5人に1人が該当する。介護保険サービスの利用者数は約600万人。居宅サービスは約410万人、施設サービスは約95万人、地域密着型サービスは約90万人。これらの人々は介護保険サービスにより安心して生活を維持しているといっても過言ではない。
また、居宅介護サービスを提供する訪問介護事業所は約3万6000カ所、通所介護は2万4000カ所。この二つを合計すると日本全体のコンビニの数を上回る。
一方で将来を展望すると、「介護保険の危機」と呼ばれる状態が顕在化しつつある。
一つは、制度の持続可能性の問題である。00年度では3兆5000億円だった介護費用額(利用者負担を含む)は、24年度予算では14兆2000億円と約4倍に増加。これにより国や地方自治体の公費負担や、被保険者の保険料負担が増加。24年からの高齢者1人当たりの全国平均保険料は月額約6200円と、制度発足時の2倍以上に増加。40年度には月9000円を超えるという。
今後も増加が見込まれる介護保険給付額を、公費と保険料について利用者の間でどのように負担していくのか、ということが大きな課題である。
これまでも保険給付額の増加を抑制するため、介護保険施設などでの食費・居住費の利用者負担化、定率1割の利用者負担割合の引き上げ、介護予防の推進などの施策が講じられてきた。現時点では、利用者負担2割の対象者の拡大やケアマネジメントにおける利用者負担の導入が争点になっている。定率負担割合については、早晩、2割負担が基本になるだろう。ただ、こうした対応でも保険給付の抑制には限定的な効果しかない。
居宅介護の場合、現状では支給限度額の半分程度の利用にとどまっている。利用者が限度額いっぱいまでサービスを利用すれば保険給付額はさらに増加する可能性を秘めており、その抑制は難しいと言わざるを得ない。
もう一つの問題は、介護職員の人材確保問題である。第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について、26年度には約240万人と見込んで、毎年約6万3000人の増加を必要としている。
しかし、増加どころか、23年は前年より約2万9000人も減少した。
特に訪問介護事業の人材不足が顕著であり、人手不足から事業所を休廃業するところが増えている。その結果、訪問介護事業所がゼロの自治体は103市町村、一つの自治体は277市町村となっている。地域で訪問介護を受けることができない状況が起きている。
介護人材の確保や安定的な介護事業所の運営のためには、介護報酬の引き上げが必要である。前述の財政問題と合わせ、報酬改定の財源として、5割という公費負担割合の引き上げも検討すべきである。また、3年ごとの改定ではなく、社会経済情勢の変化に対応した随時改定も行う必要がある。
介護分野でも外国人材のウエートが大きくなるだろう。国の最近の将来推計人口では70年には総人口の1割は外国人と予想しているが、介護分野ではもっと早く1割以上が外国人材という可能性がある。
さらに、介護事業者の統合による規模の拡大や、介護機器の導入、ICT(情報通信技術)の活用などによる業務の効率化、事務負担の軽減が一層進むことだろう。
ますだ・まさのぶ 1954年生まれ。埼玉県出身。博士(保健福祉学)。81年厚生省入省。介護保険制度の創設業務を担当。上智大、岡山県立大、東京通信大の教授を歴任。2024年、同大名誉教授。著書「介護保険はどのようにしてつくられたか」(22年)など多数。