医療費 経済を超えて増大 存立を左右する少子化 和田勝 福祉社会総合研究所代表

2025年0103 福祉新聞編集部
和田勝福祉社会総合研究所代表

健康保険法が施行されて100年、国民皆保険体制に移行して60年、介護保険法が施行されてから四半世紀が経過した。

この間、わが国の産業や就業の姿、地域社会や世帯の在り方は大きく変化した。長寿化・高齢化の進展や医療の高度化などによって、医療費や介護サービス費は低迷する経済成長率を超えて増加を続けた。

医療・介護と福祉の制度の「持続可能性の確保」は、1980年頃から政治と政策の重要課題であり続けている。

被用者保険と国保の間、被保険者と被扶養者間の格差是正、医療費と国庫負担の増加抑制、医療技術の高度やニーズの多様化への対応、サービスの質の適正化等を目的として医療保険制度改革が重ねられてきた。

73年の老人福祉法改正による老人医療費の無料化は、過剰受診、社会的長期入院や薬漬け検査漬け医療、医療費の膨張をもたらした。82年に成立した老人保健法により、定額制の受診時一部負担が導入され、また、被用者保険からの老健拠出金制度、40歳以上を対象にした「ヘルスの事業」が創設された。

84年には被用者保険本人の定率一部負担導入、退職者医療制度の創設、国保の国庫負担率引き下げ、混合診療の法制化(特定療養費制度)が行われた。

老人保健法と老人福祉法を再編して97年に制定された介護保険法は「介護の社会化」と「自立支援」を目的とした。措置制度を廃止して契約による仕組みに統一、高齢者の保険料負担と定率一部負担が導入された。要介護認定とケアマネジメントの制度化、介護サービス提供基盤の整備、認知症者のグループホームの整備も進められることとなった。

当時、障害者福祉との関係見直しも論議されたが、障害者福祉サイドの論議が進んでいなかったことから制度一元化は見送られた。

2003年の「支援費制度」創設により措置制度は廃止されたが、公平で透明性の高い判断基準による適切なサービスとなっていない、所得に着目した応能負担で費用が膨張した、精神障害者が支援費制度の対象外である、といった批判が強かった。

05年に「障害者自立支援法」が制定され、高齢者介護保険との共通性を高める観点も踏まえて、支援の必要度を示す「障害程度区分」の導入、市町村審査会によるサービス利用の必要度の判定、定率1割の自己負担とされた。

08年に「老人保健法」が廃止されて「後期高齢者医療制度」が施行された。保険者は、都道府県ごとに全市町村が加入する「後期高齢者医療広域連合」で、実質的に都道府県営となった。

保険料の徴収事務や窓口業務は市町村が行うが、保険料の徴収は介護保険の第1号被保険者と同様に年金からの天引きが基本となり、定率の受診時負担、現役世代の保険料財源からの「支援金制度」も導入された。

13年に障害者自立支援法が「障害者総合支援法」に改正された。障害者に「難病」が追加され、「障害程度区分」も心身の状態に応じて必要な支援の程度を示す「障害支援区分」に改められた。この改正は介護保険との制度一元化、一体化が見送られる改正でもあった。

医療や介護、障害者のサービス費は経済成長率を超えて増加していくが、租税、保険料の財源面からの制約は今後も強くなることは避けられない。また、新型コロナウイルスや地震などの災害は医療や福祉の体制、地域社会の脆弱さを露呈させた。

医療、介護と障害者のサービスは、利用者の自己決定を基本としている。利用者本位の見地に立って各サービス間の連携と公平化、適切で効率的な提供と利用を期待したい。

とりわけ「少子化」と「人口減少」、そして必要なサービスを担う「人材不足」は、日本の存立にかかわる問題である。地域社会を維持し活性化を図ること(地方創生)は、医療や介護と福祉はもとより内政の最重要課題であり、人口減少対策への抜本的な対策を期待したい。


わだ・まさる 1945年5月生まれ。東京都出身。東京大法学部卒業後、69年厚生省入省。三重県福祉部児童老人課長、社会局生活課長、児童家庭局企画課長、保険局企画課長などを歴任。老人保健法制定(82年)、健康保険法84年大改正、93年改正に従事後、高齢者介護対策本部事務局長として介護保険法案の国会提出に当たった。