建物の寿命について〈福祉施設長寿命化と再生⑤〉
2025年12月13日 福祉新聞編集部
耐用年数と耐久年数
建物の寿命という話題に必ず出てくるのが耐用年数である=表。耐用年数を過ぎたから、そろそろ建て替えを検討しなければ、といった話である。結論を言うと、建物の寿命を使用可能年数と考えた時、耐用年数は建物の寿命にまったく関係がない。耐用年数は、財務省が示す法定耐用年数のことで、法人税額の算出に使われる経理上の減価償却期間である。

減価償却資産の耐用年数の推移
例えば、鉄筋コンクリート造りであれば、福祉施設の耐用年数は39年である。39年を経過すると、経理上の資産価値は0円ということになるが、実際に運用されて利用者が生活をし、対価として収益を生み出しているのであれば、社会的・経済的価値が0円の訳がない。減価償却期間を過ぎても建物の価値は残っている、つまり、生きているのである。
耐久年数が、建物の物理的な寿命ということになる。建物は、躯体(構造体)、防水、仕上げ、設備など耐久性の異なる多くの部位、部材の集合体である。それぞれの耐久年数は、製造するメーカーの実験値や調査データなどから、十分に使用可能な期間として示されている。
躯体が寿命を決める
複数の集合体の中で、寿命を決めているのは躯体(構造体)である。なぜなら、躯体以外の部分は、耐久年数が過ぎれば、修繕や更新によってリニューアルすることができるからである。端的に言えば、躯体にくっついている消耗品のようなものだ。躯体も修繕や補修は行われるが、取り換えるとなると、とても現実的な話ではないであろう。
それでは、寿命を決める躯体の耐久年数は何年かということになるが、これは、なかなか難解になる。日々のメンテナンスや修繕、置かれている自然環境によって、耐久年数は大きく変わるからである。そして、これを言っては身もふたもないが、躯体の耐久年数に最も影響を与えるのは、建設時の躯体の施工精度だと言われている。完成時に建物の寿命は、ほぼ決まってしまっているという残念な理屈になる。バブルの時代に乱立した建物は、不動産価値が低いと言われるゆえんである。

