60年前に一般公開されなかった映画「人間の記録」 現代の精神医療を問いかける

2026年0325 福祉新聞編集部
全国精神保健福祉会連合会のウェブサイト

 精神医療をめぐり、およそ60年前の人たちから分厚い手紙を受け取ったような気持ちになる、そんな3月を迎えた。

 1964年3月24日、社会を震撼させる事件が起きた。19歳の青年が駐日米国大使ライシャワー氏をナイフで刺し、重傷を負わせたのだ。

 青年には精神分裂病(当時)の診断歴があり、世論は「精神病質者を野放しにするな」の一色。一方でそれにあらがうかのように、同じ年、映画「人間の記録~分裂病に抗して」(40分、岩波映画製作所)が作られた。

 「人間としての復権のため、あえて精神分裂病患者の真実の姿を記録した」とうたったこの作品は一般公開されず、長らく埋もれていた。

 ところが12日、全国精神障害者家族会連合会(全家連=2007年解散)の結成60年記念大会で上映された。主催は全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)だ。

 映画の舞台は茨城県立友部病院(当時)で、たくさんの入院患者を包み隠さず映した。ある大学の教育学部2年生の女性患者は入院当初、やつれた顔で食もなかなか進まない。帰宅願望も強い。

 しかし薬物療法、絵画療法、卓球などのレクリエーションを経て笑顔を取り戻し、医師にこう話す。

 「最初は入院するのが恥ずかしかったけど、今はなんとも思わなくなった。人生観なんてのも変わっちゃうね、ここにいると。青春時代がもう一度来たみたい」

 会場で観た大熊由紀子さん(85、元朝日新聞論説委員)は駆け出しの記者だった60年前を思い、「この映画が公開されていたら、患者の家族らを安心させる説得力を持っただろうに」と残念がった。

 映画の監修は精神病理学の礎を築いた島崎敏樹医師(1912~75)。患者との人間的な関わりを重視し、「新しい精神医療はこういうものだ」というメッセージを映像に散りばめた。

 それから60年。精神科病院は今もなお、長期入院、身体拘束、看護師らによる患者への虐待を解消できていない。

 フィルムを保管し、上映を企画した認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)の丹羽大輔さん(62)はこう話す。
 「この映画は私たちに『このままでいいのですか』『あなたは何をするのですか』と問い掛けているように思えてならない」。

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