介護老人施設の支出管理

2025年0307 福祉新聞編集部

1.源流管理

第5回では、従来型かユニット型か、あるいは定員規模が介護老人福祉施設の収益性に影響があることを福祉医療機構(WAM)が公表しているレポートを基に確認した。いわば、従来型かユニット型か、あるいは定員規模といった事業の企画・計画段階で収益性の大枠が決まる、と言える。

サービス提供以前の企画・計画段階で収益及びコスト決定要因を管理する考え方を源流管理という。サービス提供以前の企画・計画段階で大枠が決まるのは収益だけではない。費用も同様である。例えば、減価償却費は、サービス提供時点で減価償却という手法で費用化されるのであるが、建物を新築するか、中古建物をリニューアルするか、または賃借建物にするかといった事業の企画・計画段階で減価償却費の総枠は決まっているのであり、サービス提供時点での費用の抑制は限界がある。

また、給食提供に掛かる人件費は、サービス提供時点で費用化されるのであるが、厨房業務を内製するのか外部委託するのかといった事業の企画・計画段階で給食提供に掛かる人件費の総枠は決まっている。

社会福祉事業においても源流管理がとても重要であり、事業スタート後のコスト管理は限定的である。

2.介護老人福祉施設の支出に関する考え方

2000年4月1日から介護保険制度が実施されることとなり、特別養護老人ホームなどにおいては措置費から介護報酬に移行されることに伴い、「特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等について」が出され、繰越金、積立金及び支出対象経費等介護老人福祉施設における支出に関する基本的考え方が定められている。

3.支出対象経費

介護報酬を主たる財源とする施設の運営に要する経費など資金の使途については、原則として制限が設けられていない。措置施設と異なり、施設整備借入金の償還金、利子の財源の制約も設けられていない。ただし、次の支出に充てることはできないと定められている。(1)収益事業に要する経費(2)当該特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人外ヘの資金の流出(貸し付けを含む)に属する経費(3)高額な役員報酬など実質的な剰余金の配当と認められる経費。

4.複数年度での財務運営施設整備費等財源

介護報酬を単年度で使い切らず複数年度において運営することについては、積立金及び繰越金として次のように認められている。

(1)積立金及び積立預金

積立金の支出対象については、例示として①施設整備積立金②人件費積立金が挙げられているが、これらの積立金に限られたものではない点が措置施設と異なるところであり、限度額の設定もない。

(2)繰越金

各会計年度における事業活動収支及び資金収支は、長期的かつ継続的な事業運営の確保に留意しつつ、収入、支出の均衡を図り、当該指定介護老人福祉施設の健全な運営に必要な額以上の収支差額を生じないようにすること、とされるが、措置施設とは異なり繰越金の限度額についての定めはない。

5.法人運営の視点での繰り入れ・繰り替え使用

法人運営という視点では介護報酬と当該施設の運営費などに使用するほか、同一法人が運営する他の事業に繰り入れ、あるいは繰り替えて使用することが次のように認められている。

(1)資金の繰り入れ

①当該法人が行う他の社会福祉事業または公益事業への繰り入れについては、健全な施設運営を確保する観点から、当該指定介護老人福祉施設の事業活動資金収支差額に資金残高が生じ、かつ当期資金収支差額合計に資金不足が生じない範囲内において、資金を繰り入れても差し支えない、とされる。

②当該法人が行う当該指定介護老人福祉施設以外の居宅サービス等の事業ヘの資金の繰り入れについては、当期末支払資金残高に資金不足が生じない範囲内において、資金を繰り入れても差し支えない、とされる。

(2)資金の繰り替え使用
同一法人が運営する他の事業に一時的に資金を貸し付け(繰り替え)て使用することも次のように認められている。

①当該指定介護老人福祉施設以外の居宅サービス等の事業ヘ繰り替え使用した場合は年度内償還の制限はない②他の社会福祉事業等または公益事業もしくは収益事業ヘ一時繰り替え使用する場合は当該年度内に補填ほてんしなければならない。

6.介護報酬施設の施設整備補助制度

介護報酬施設の施設整備補助金については自治体の高齢者保健福祉計画による。例えば、東京都では定員1人当たりの施設整備補助額が定められ、協議により補助金交付が決まる。補助金以外の自己資金については施設整備積立金、償還時には介護報酬がそれぞれ対応可能な財源となる。