介護テクノロジー導入で離職率が半減 ノウハウも公開するSOMPOケア
2025年01月29日 福祉新聞編集部2025年はいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者へと突入する節目の年だ。一方で、25年に7170万人いる働き手が40年には3割も減少するなど人材不足はより深刻化する見込み。そうした中、厚生労働省は介護現場に対するテクノロジーの導入を進め、生産性の向上を目指している。最前線の動きを追った。
SOMPOケアが運営する介護付き有料老人ホーム「ラヴィーレ高島平」(東京都板橋区)は5年前から、約70人の入居者に「眠りSCAN」を用いた見守り支援システムを導入している。
パラマウントベッド社が開発した。マットレスの下にシート状のセンサーを敷くことで、利用者の体動を検出。職員らはモニターで、入居者の睡眠状況や呼吸数、心拍数などを推計値でリアルタイムに確認できる。松本裕晃ホーム長は「現場には大きな負担軽減になっており、もはや欠かせない機器の一つ」と語る。
入居者の平均要介護度は2・9ほど。利用者の中には、自分で食事や排せつなどはできるものの、介助なしで歩くのが難しい人もいる。
それまで同施設では、夜勤の職員を3人配置し、2時間に1回のペースで巡回。確認する回数は1晩で延べ300回にも上った。
だが、眠りSCANはリアルタイムで利用者の覚醒や離床の状況が分かるため、夜間に何度も居室に行く必要がなくなった。「ドアが開くたびに目を覚ますことがなくなったと入居者からも好評」と松本ホーム長は話す。
夜勤業務が大幅に減ったことから、現在は夜勤の職員は2人に。その分、昼間の職員を6人から7人に手厚くしたという。
さらに睡眠中のデータを分析したところ、実は夜間にあまり眠れていない入居者がいることも分かった。そのため医師が薬を変更。食欲が増すなど健康状態が改善する入居者もいた。
同社は眠りSCANを用いた支援システムを2018年に1施設で試験的に取り入れ、19年に33施設へと広げた。今では全国で展開するすべての介護付きホーム291施設に1万7000台を導入している。
主導したのは同社未来の介護推進部。在宅サービスも含めると全国に約2万5000人に上る職員の負担軽減と介護の質向上の両立を目指してサポートする部署だ。
導入したのはパラマウントベッド社の製品だけではない。浴槽内に小さな泡を発生させて身体の汚れを落とす入浴機器や、ドーム型のミストシャワー、自動で体位交換ができる機器も取り入れている。またドライヤーも短時間で髪を乾かせるものに変えた。
機器は導入前に同部が操作性と安全性を実証実験した上で、現場に少しずつ広げる。その過程で職員の評判が良くなければ導入を見送ることも少なくないという。
こうした職員重視の取り組みを重ねた結果、かつて20%にも上った離職率が今では半減するなど大きな効果が出た。
同社がこうした取り組みを進める背景には働き手の減少という将来への大きな危機感がある。厚労省の推計では、40年度に必要な介護職員は272万人で、22年度時点から57万人も必要となる。
同社はこれまでのテクノロジーに関する知見を外部にも開放。他法人の見学受け入れや、開発会社との連携も進めるなど介護分野全体の底上げを目指す。
同部の小泉雅宏部長は「得たノウハウは他法人にも公開することで、業界全体の環境改善につなげたい。利用者、職員、未来社会の三方良しこそが重要だ」と話す。