社協職員が生活介護 地域福祉の二刀流(山梨)

2024年1007 福祉新聞編集部
映画のチケット作りを見つめる井上さん(右から3人目)

障害福祉サービスの生活介護事業所「ローグ」(山梨県上野原市)がにぎわいを見せている。重度障害者の日中の介護を担うのが「生活介護」だが、ローグは軽食もとれるカフェを併設。地元住民が頻繁に出入りするサロンのような存在だ。

それもそのはず、運営するのは現役の社会福祉協議会職員の井上真吾さん。平日は相模原市社協に勤め、福祉教育をはじめ地域福祉の実践にあたる専門職だ。土曜日は(株)ローグの代表として、もう一つの地元で人と人との交流を促す。

物語の生まれる空間

同じようなことを異なる地域で行う〝二刀流〟を始めて丸2年。コンセプトは「物語の生まれる空間づくり」だ。事業所で何をするかはカッチリ決めず、あえて余白を残すよう心掛ける。

福祉専攻ではない大学生も吸い寄せられるように訪れる。8月下旬、青山学院大相模原キャンパスで学ぶ学生が、生活介護に通う障害者と一緒に映画のチケット作りをした。10月13日にローグで開く上映会の準備だ。

その輪の中心になったのは自閉症のあるケンさん。ハサミを使うのが大好きで、言葉は話さないものの、色画用紙を切ると笑顔を浮かべる。初対面の人を和ませるのが得意だ。

参加した学生は福祉の実習でもボランティアでもなく「将来、街づくりの仕事をしたくてここに来た」と口を揃える。障害者と話した経験もゼロという。

「外部からも参加しやすい場にすることで、障害者かどうかの境界もなくなるのでは」と井上さん。言葉だけの「共生」ではなく、同じ時間と空間を共有して物語が生まれることを何よりも重視する。

ローグの由来は「logue」という英語接尾辞だ。「pro」を足せば「prologue(物語の始章)」となるように、何かとつながることで言葉になる――。井上さんの信念が詰まったネーミングだ。