安定した座位保持のための筋力トレーニング〈高齢者のリハビリ 67回〉
2023年11月10日 福祉新聞編集部私たちは普段、テレビを見るときや、食事や手作業をするとき、座る姿勢までは気にしていないと思います。しかし、このような動作を快適に行うことができるのは安定した座位保持ができているからなのです。
高齢者の座位保持
病気や加齢に伴って正しい座位姿勢を保つことが難しくなります。不良な座位姿勢で過ごしていると円背や四肢、体幹の拘縮につながり、飲み込む機能や呼吸にも悪影響を及ぼしかねません。
高齢者が正しい座位保持ができなくなる原因としては(1)加齢に伴う背骨の湾曲や関節の拘縮(制限)(2)加齢に伴う筋力低下(3)視野や聴力の低下によるバランス能力の低下――などが挙げられます。普段から良い姿勢で座ることを意識し、適切な運動が必要です。
座位を保つ筋肉
正しい座位姿勢を保つためには体幹の支持性に関わる筋肉の働きが重要です。主には脊柱起立筋、多裂筋、最長筋(背中側の筋肉)、腹直筋、腹横筋、内外腹斜筋(おなか側の筋肉)などです。また、骨盤を前傾後傾中間位で保持する腸腰筋や大腿直筋など、骨盤と下肢をつなぐ筋肉も重要です。これらの筋肉がバランスよく働くことで骨盤が中間位に保たれ、脊柱を伸ばし、正しい座位姿勢が生まれます。
骨盤の運動
まず一つ目のトレーニングは骨盤の前後運動です。
おなかをへこませた状態から、胸を張りながらおなかを前に出し、良い姿勢を保ちます。5秒保持したら再度おなかをへこませ、この動作を繰り返し10回×2セット行っていきます。体幹の力が弱く、姿勢を保つことが難しい場合は、両腕をテーブルの上に置き、上肢の力を使いながら行います。
おなかの運動
二つ目のトレーニングはおなかの内圧を高める運動です。
息を3秒間で吸い、7秒間かけてゆっくりと吐き出します。息を吸うときは鼻からおなかを膨らませ胸を張るように行い、吐く際は口をすぼめておなかをへこませるように力を入れます。ボールを抱えておなかに抑えつけながら行うと分かりやすいです。この運動を10回×2セット行います。
バランスの運動
三つ目のトレーニングはバランスを保つ運動です。
背もたれから背中を放して姿勢を正し、左右に体重を移動させ、お尻を交互に浮かしながらバランスを保ちます。上半身は大きく傾かないように注意し、お尻で足踏みするようなイメージで30回×2セット行います。運動が難しい場合は肘置きを手で支えて行うようにします。
高齢者の座位保持で重要なことは、「正しい座位姿勢が保てること」「座位姿勢が崩れてきたときに自ら姿勢を直せること」です。これらが可能であれば、長時間の座位も可能となり、褥瘡の予防や疲労・疼とう痛の軽減にもつながると思います。
座位での活動が増え、それを楽しむためにも、これら運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。
筆者=林田大輔 新武雄病院
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長