高次脳機能障害が引き起こす障害の特徴〈高齢者のリハビリ〉
2023年03月10日 福祉新聞編集部最近では、高次脳機能障害という言葉を耳にする機会も増えてきましたが、具体的な特徴や日常生活への影響についてはご存じない人も多いと思います。高次脳機能障害を知らない人にとってはミスの多い人や物覚えが悪い人と捉えられてしまうことも少なくありません。しかし、適切な対応方法や症状に合わせた暮らしの中の工夫を行うことで、日々の生活にも改善がみられていきます。
脳機能障害の特徴
(1)脳卒中や交通事故などによる脳の損傷が原因であり、進行性ではない
症状が類似する点もあり、認知症との区別が難しいこともありますが、高次脳機能障害は認知症のように少しずつ進行していくものではありません。受傷後の期間により症状はおおむね固定され、交通事故による受傷や脳卒中の発症など、原因の特定が可能なことが多いです。
(2)外見では判断しにくい
まひのように目で見て分かる障害ではないため、高次脳機能障害の症状の多くは、患者さん自身や家族も症状に対して気付くまでに時間を要すことが多いです。
日常生活への影響
高次脳機能障害は、症状によって日常生活における影響も大きく異なってきます。代表的な症状別に日常生活への影響について五つ紹介します。
(1)注意障害は、集中できずに注意が散漫になったり、落ち着いて物事に取り組むことが難しくなったりしてしまいます。(例=仕事をしていてもたびたび中断してしまう、ミスが多い、探し物が探せない)
(2)記憶障害は、患者さん自身が体験したことや知識を思い出すことが難しくなってしまいます。(例=食べたものを思い出せない、過去のことを思い出せない、事実と異なる話をする)
(3)半側空間無視は、空間や物体の限定された一側に注意が向かないために、物に気が付くことが難しくなってしまいます。左右はどちらかに固定されるため、両側に出現することはありません。(例=歩いていてよく右側にぶつかる、左側の食器に気が付かない)
(4)遂行機能障害は、物事を順序立てて実行することが難しくなり、仕事や家事などの段取りが悪くなってしまいます。(例=約束した場所に行くために何時に家を出ていいか分からない、料理を行う際に計画できない)
(5)社会的行動障害は、今自分がいる環境に合った行動や言動ができず、自分自身をコントロールすることが難しくなってしまいます。(例=何をするにも声掛けが必要、思い通りにいかないと突然大声を出す、こだわりが強く人の意見を聞かない)
今回は、高次脳機能障害の特徴と代表的な症状を中心に日常生活への影響について紹介しました。そのほかの代表的な高次脳機能障害とその特徴は表をご参照ください。
高次脳機能障害は多岐にわたります。患者さん自身が障害に気が付かないことが多いため、周囲の方が症状を理解し対応方法を考えることが重要になります。
筆者=松本宗一郎 蒲田リハビリテーション病院 課長代理
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長