トイレでの排せつの意味
2022年12月02日 福祉新聞編集部「オムツをはいているから、そこに出していいですよ」と、トイレに行きたいと訴えている人に対して、このような発言を耳にしたり、口にしてしまったりしたことはありませんか。その時の患者さんの状況や環境でやむを得ない場合、トイレに連れて行く介助量が分からず不安がある場合などに、そのような言葉を発してしまうことがあるかもしれません。
排せつ行為とは、小さいころから自分のしたい時にトイレで用をたすという、自分の意志に基づき、自分だけで完結してきた行為であり、他者が介在することができないプライバシー性が高い行為です。自分でタイミングや場所を決めてきた、いわば自己解決的な行為だと言えます。
では、その排せつ行為を他者にタイミングや場所をコントロールされてしまった場合、人はどのような感情を抱くかということを我々は察することが必要です。もし、他者のコントロールにより排せつをその場で強要されたり、他人に見られたり、失敗して排せつしたオムツを処理してもらうなどといった立場になったとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。我慢できなかった自分への惨めさや、失敗や、排せつ物を見られてしまった恥ずかしさなど、耐え難い思いになります。それは人としての自己尊厳にも関わる大きな問題です。
ここではトイレに連れていきたいけど不安という人に、その不安を減らすための具体的な方法を紹介します。
まずは患者さんのトイレでの排せつ動作の介助量を評価する方法です。患者さんの介助量の把握は日ごろから情報を共有しておくことが望ましいですが、まだ一度もトイレに連れて行ったことのない患者さんに頼まれたとき、すぐにどの程度の介助量が必要かを評価する方法があります。トイレ動作において介助量を測る目安として、座位・立位保持が可能かどうかになります。
その簡単な評価として、(1)寝たままの状態で両膝を立ててもらいお尻を上げてもらいます。(2)座位の状態から膝上げ動作と膝伸ばし動作をしてもらいます。(1)で十分にお尻を上げることができれば、その方は座位が可能と言われています。また、(2)でどちらか一方ができた場合は約6割の人が立位を自立、両方できた場合は約8割の人が立位を自立できると言われています。
このように介助量が予測できれば、トイレへの誘導がしやすくなります。トイレに行くことができれば、他者から見られず、臭いも気にせず、プライバシーが守られた空間で排せつ動作が可能となります。
また、座位の取れない患者さんには、尿器などの福祉用具を導入することで、準備や処理に手助けは必要となりますが、自身の意志に基づいて好きなタイミングで排せつ行為が行えるようになります。
排せつ行為はプライバシーを守り、人の尊厳を保証する重要な生活行為です。患者さんが可能な限り、排せつ行為を自己解決できる部分が増えるように援助することが大切です。我々は目の前にいる一人ひとりの対象者に寄り添い、手を添え、環境を整え、その人にふさわしい生活を共に作る必要があるのではないでしょうか。
筆者=小島佑紀 狭山中央病院 主任
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長。