食事を「姿勢」から考える
2022年09月02日 福祉新聞編集部シーティングの基本的な考え方
安定した座位では、「支持基底面」の中に「圧の中心点」が収まっています。
座位の「支持基底面」とは、足底、大腿部の裏面、座骨でつくる面です。「圧の中心点」とは、重心(座位では胸骨の裏側あたりに位置する)から下ろした垂直線と支持基底面との交わる点です(図1左)。加齢、廃用症候群、脳血管障害などで筋力低下や関節拘縮がみられるようになると、図1右のように骨盤が後傾して後ろに寝た状態となり、円背(猫背)を呈しやすくなります。このような座位では重心が支持基底面後方にはみだしてしまい、上肢が前に出にくくなり、立ち上がりなど次の動作への移行も難しくなります。
シーティングよって、骨盤が立ち上がり、重心が前方に移動して支持基底面の中に収まると、座位のバランスが改善し、座っていることへの苦痛も軽減します。上半身が動かしやすくなるので、積極的に上肢を使うようになり、目の前の物を取る、手すりをつかむ、車いすをこぐなど、活動的な動作につながりやすくなります。
飲み込む力と坐位姿勢
ものを飲み込むとき、「ゴックン」に合わせてノドボトケが上に持ち上がります。これは「喉頭挙上」といって嚥下には大切な機能です。
この喉頭挙上には図2左に示すように、下顎と舌骨とにつながる「舌骨上筋群」と、舌骨と甲状軟骨につながる「舌骨下筋群」が働きます。この舌骨上筋群と舌骨下筋群が良好に働くためには姿勢が影響します。脊柱が伸びて良い姿勢が保たれていることで舌骨上筋群と舌骨下筋群が強く働くようになり喉頭の挙上が良くなり、飲み込む力が良好に発揮されます(図2右)。
また、この喉頭挙上と合わせて嚥下には「舌圧」が重要です。舌圧とは飲み込むときに舌が上顎(口蓋)を押し付ける力です。この圧が大きいことも嚥下の大切な条件です。
正しい座位姿勢をとることで喉頭の動き(挙上)が改善し、舌圧も高くなり、嚥下機能が改善します。逆に不良な座位姿勢は摂食嚥下機能を低下させてしまいます。
常日ごろより姿勢と嚥下機能との関係には注意しておかねばなりません。
筆者=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長。