〔新機軸〕高校生が施設運営 法人とコラボ実習(佐賀)

2024年1211 福祉新聞編集部
利用者とおしゃべりする神埼清明高生=ひまわりの園で昨年9月

介護の仕事をリアルに体験し、DX(デジタルトランスフォーメーション)で障害者のQOL(生活の質)アップをと、佐賀県内の社会福祉法人と県立高校がコラボ企画を展開している。福祉を学ぶ高校生が実習で現場に立つのは珍しくないが、施設の運営をそっくり任され、多職種で成り立っていることを実感するユニークな取り組みだ。

タイアップしているのは県西部の嬉野市にある済昭園(小佐々良徹理事長)と県立嬉野高(原美和校長)、それに東部に位置する健翔会(門司誠一理事長、鳥栖市)と県立神埼清明高(尊田益弘校長、神埼市)。両校の総合学科には介護福祉士や看護師などを目指して学ぶ生活・社会福祉系列(福祉コース)があるほか、嬉野高は工業科(機械、電気、建築の3科)も併設している。

先べんをつけたのは嬉野高。園との話し合いで「デイサービスを任せてみたら」とのアイデアが飛び出し昨年9月、当時の3年生11人(男子1人、女子10人)が「デイサービスセンター済昭園」で相談員や介護主任など介護職、看護師、機能訓練士のポジションに分かれ、「1日運営」に挑んだ。

利用者の了解のもと、マンツーマンで付き添う園のスタッフに教えてもらいながら、朝礼と業務の申し送りに始まり、利用者の送迎、入浴、トイレの誘導、食事準備・配膳、おやつの用意、レクリエーションと、夕方の〝退勤〟まで動き回った。〝看護師〟は連絡帳のチェックやバイタル測定、〝機能訓練士〟は歩行訓練や計算ドリルといった個人訓練もこなした。浦郷久美子教諭は「サービス運営の流れを知るきっかけに、そして介護実習だけでは得られない多くの学びの機会となりました」という。

この試みをヒントに一歩深め、「安全・快適な運営・管理」をテーマに神埼清明高の2年生15人(男子2人、女子13人)はリハーサルをはさんで今年3月、健翔会の特別養護老人ホーム「ひまわりの園」と、同じ屋根の下のデイサービスセンターで実践した。役割を歯科衛生士、柔道整復師、栄養士など生徒が将来希望している八つの職種へ拡大。「体調の確認など細かな気遣いの大切さを知りました」(機能訓練にあたった石松凛さん)▽「看護師、ケアマネジャーと情報を交換しながら、歯科衛生士は一人ひとりの症状に沿ったケアをしていた。私も口腔内を観察させてもらいました」(井上凜花さん)。

健翔会の轟幸恵主任(48)は「高校生は利用者と楽しそうにコミュニケーションをとっていましたね」と目を細め、同高の原慶介教諭は「マネジメントの実際を身につけさせたかった。教室では学べない多職種連携の大切さを感じたと思う」と話す。

一方、済昭園では嬉野高の社会福祉系列(男女各1人)と工業科(機械科の男子3人)の3年生がタッグを組んで障害者のQOL改善計画が進行中だ。同高は文部科学省が今年度スタートした「DXハイスクール」(情報通信技術を活用した文系と理系を横断する探究的な学び)の実施校になっているが、福祉の現場で役立つことをと、まず社会福祉系列の2人が10月に済昭園でヒアリング。ベッド脇の床頭台からものを取りやすくとか、動かしやすい健側と逆サイドにある車いすブレーキも健側から操作できないかといった声を受け、「工業科の仲間と3Dプリンターを使った用具作りを検討している」(浦郷教諭)。

コラボには介護人材の発掘という目的もあり、小佐々徹心施設長(45)は「幸いなことに企画に参加した高校生が当法人へ入職してくれました」と評価している。


済昭園 1928年、光桂寺境内に養老院を創立。特養、児童養護施設など7施設17事業所を運営。職員240人。

健翔会 1998年設立。特養のほかケアハウス、保育園、子育て支援センターなど5施設8事業所を運営。職員208人。