【龍谷大・下】「自省利他」仏教SDGsの道
2026年04月07日 福祉新聞編集部
龍谷大学の瀬田キャンパス(大津市)ができて9年。1998(平成10)年春、社会学部社会福祉学科は、地域福祉学科と臨床福祉学科に改組された。
国際障害者年(81年)の盛り上がりで、日本でもノーマライゼーションが合言葉になり、バリアフリーなどの施策が進んだ。少子高齢化や地方の過疎化が進み、住民同士が支え合って共に生きる「地域福祉」の推進が求められた。
こうした中での学科改組。「地域福祉」を冠した学科の誕生は先駆的だった。
ふれあい大学、障害者の糧に
「共生」の象徴の一つに、2002年に短期大学部に開設された「ふれあい大学」がある。地域の知的障害者が学生と一緒に学ぶオープンカレッジで、14(平成26)年に、「糸賀一雄記念賞」を受賞している。
学生と障害者がペアを組んで、演劇などを1年間かけて作り上げる。授業に出た学生は最初、障害者と距離を置くが、夏休み明けごろから、自然な交流が芽生えてくる。
障害者にとっての「大学」は、普段の狭い世界から抜け出す大きなチャンス。学生は1年間、障害者は4年間学ぶ。学び終えると、障害者には学長名の修了証が出される。「大学を卒業できた」。そんな感覚も味わえる、障害者にとっては大きな誇りになる修了証だ。
「ふれあい大学」の立ち上げに関わった名誉教授の加藤博史さんは、「参加した障害者は自立意欲を高め、発語にも不自由していた施設入所者が、ふれあい大学を経て1人暮らしを始めたケースもある」と話した。
この取り組みがきっかけで、06年に深草キャンパスに地域の知的障害者が働く「カフェ樹林」がオープン。ここが起点となり、龍谷大学を代表するソーシャルビジネス「革靴をはいた猫」が生まれた。17年3月、卒業を前に政策学部の魚見航大さんらが創業した。カフェで一緒に働く知的障害者らと靴磨きを学ぶ中で、起業を決めた。
魚見さんは、一緒に靴磨きを学んだ障害者らと会社を軌道に乗せ、京都市役所近くと大丸京都店内に、常設店を構えている。
仏教SDGs
雨模様の9月6日昼下がり、深草キャンパスに入澤崇学長を訪ねた。
「社会に生じている深刻な課題のほとんどは人間の行動に原因がある。だからこそ、人間のありようをしっかり見つめなおし、持続可能性のある社会をつくらないといけない」
入澤学長がこう話したのは、「仏教SDGs」について聞いた時だった。
創立380年を迎えた19(令和元)年、入澤学長が中心になって「自省利他」を掲げ、その行動哲学を基本に据えた「仏教SDGs」の概念を打ち出した。
「仏教SDGs」が生まれたきっかけは、入澤学長が17年の学長就任時に聞いた国連の広報局アウトリーチ部長によるSDGsに関する講演だった。
仏教の精神、「摂取不捨」という阿弥陀仏の誓願は、「だれ一人取り残さない」というSDGsの原則に通じる。そのことに思いが至る一方で、「社会の深刻な問題は人間がもたらしたもの。その人間が変わらない限り、持続可能な社会の構築は難しい」と感じた。
自省利他について、「仏教SDGsウェブマガジンReTACTION(リタクション)」は、こう紹介している。
<自身に自己中心性が宿っていることを自覚し、払拭に努めることを指す「自省」と、他者への思いやりと幸福を願う精神を指す「利他」を掛け合わせた行動哲学……持続可能な社会の実現に近づく鍵となり得る>
入澤学長は言った。
「自分を成り立たせているものは、親兄弟や食べ物、水など縁あるものすべて。だからこそ、自分と同様に大事にしなければならない」
すべての人が、食べ物や水など、人間存在に関係あるものすべてを大事にすれば、持続可能な社会ができる。仏教SDGsの目標だ。
ソーシャルビジネスの拠点
このころ、入澤学長にもう一つの出会いがあった。
06年にノーベル平和賞を受賞した、ムハマド・ユヌス博士だ。バングラデシュでグラミン銀行や病院を設立し、「利他」の精神で社会に役立つビジネスを展開してきた実業家、経済学者でもある。
入澤学長は、博士が提唱したソーシャルビジネスの考えと仏教SDGsの理念に親和性を感じ、ユヌス博士が所長を務めるユヌスセンター(バングラデシュ)と連携し、19年6月、龍谷大学にユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターを設立、創立380周年イベントへ招へいした。
センターは全学的な位置付けで、事務局を深草キャンパスにある龍谷大学エクステンションセンターとした。
同センターは、ソーシャルビジネスに関する企業との共同研究、成果の発信、ソーシャルビジネスの立ち上げの三つを柱にしている。
20年、センター主催のイベントで学生らが女性の健康に関するアイデアを発表、生理用ナプキン無料化を実現するサービス「OiTr」(オイテル)の導入につながり、すでに学内トイレ220カ所に生理用ナプキンディスペンサーが置かれており、今後も継続して設置を予定している。
社会学部、移転・統合へ
社会学部地域福祉学科と臨床福祉学科は2016(平成28)年に、現代福祉学科に生まれ変わった。
そして25(令和7)年4月、社会学部はキャンパスを瀬田から深草に移転する。現代福祉学科と社会学科など3学科を総合社会学科(仮称)にまとめ、社会学と社会福祉学を総合した展開を行う予定だ。
19年から2年間、社会学部長を務めた山田容教授は「知識だけでなく、理念をもって実践する龍谷大学の社会福祉の歴史を引き継がないといけない」と気を引き締める。
例年、現代福祉学科の学生の約5割が福祉施設や社会福祉協議会、福祉系公務員、福祉系企業など福祉系の進路を選択している。多くの卒業生が福祉現場で活躍していることを、山田教授は大事な教育の成果と考えている。
現代福祉学科を20年に卒業し、大阪府の阪南市役所市民福祉課に勤める星沙耶香さんは、「地域全体で福祉を支えるまちづくりの大切さを大学の実習などで学びました。その実現に向け、関係者とのコミュニケーションを図っています」。
滋賀に、京都に、大阪に。活躍の場を広げる龍谷の福祉人。2年半後に迫った社会学部の転身を、どう生かすか。新たな道が始まろうとしている。
(関西支局・飯塚隆志)

