【佛教大・下】「還愚」を自覚して未来へ
2026年03月31日 福祉新聞編集部
佛教大学の特徴は、通信教育だけではない。学生同士の距離が近いこと。そして、卒業後の絆も強く、一大ファミリーになっていることだ。
7月22日夕、その「大家族」をサポートする総務部校友課を訪ねた。通学課程は、佛大同窓会。通信教育課程は、佛大鷹陵(おうりょう)同窓会という。
そのとき、チャイムが流れた。
「あっ、これは」
浄土宗の宗歌『月影』の調べ。宗祖、法然上人が詠んだ和歌である。
<つきかげの いたらぬ里は なけれども ながむる人の 心にぞすむ>
つきかげは「かげ」ではなくて、月明かり。阿弥陀如来のお慈悲の「み光」をいう。
<み光は一切をお照らし下さるが、み光をながめなければ、お慈悲に気づけない。阿弥陀様は『わが名を呼べ。必ず救う』と願って下さっている。ただ『南無阿弥陀仏』と念仏を唱えよう。そうすれば、極楽浄土へお救い下さる>
「南無」は、「おすがりする」という意味だ。
同窓会、全国に100支部
「チャイム、懐かしいですね。『月影』は、浄土宗の高校では校歌にもなっています。甲子園で『月影』を聴きたい一心で、毎年、予選から応援します」
佛大同窓会の会長、伊山喜二さん(71)は、こう話した。
今年6月23日に就任。社会福祉法人南河学園(大阪府柏原市)の理事長として、児童養護施設や保育所の子どもたちを育んでいる。
佛大同窓会は、1961(昭和36)年秋の発足。会員は、約6万7000人。
「佛大愛というのでしょうか。佛大卒と分かった時点でお互いにスイッチが入って仲良くなる。福祉の仕事でも、おおいに助かっています」
一方、鷹陵同窓会は佛大同窓会より4年早く、57(昭和32)年春に発足。約2万3000人。入会は任意だ。
両同窓会を合わせると、全国の支部は100。毎秋の学園祭「鷹陵祭」に、「ホームカミングデー」を実施。恩師や同窓生が旧交を温める。
兵庫県尼崎市に住む磯田友希さん(50)は、会社勤めをしながら通信課程で学んだ。2017(平成29)年3月に卒業、11月に宝塚市社会福祉協議会に入職した。
「40歳を過ぎてからの再出発でした。月1回のテストやレポート提出。朝4時に起きて机に向かったり、お昼休みに公園のベンチで勉強したり……。スクーリングの時は、佛大近くのホテルに泊まりこみ、仲間たちと朝食……。理論と実践。学ぶことが、とても楽しかったですね」
社会福祉士と介護福祉士の資格を取り、訪問介護の現場で計画作成責任者として活躍している。
慈父と慕われた秦隆真
社会福祉学部長の藤松素子教授は、1998(平成10)年春に佛大に赴任した。
「佛大はコンパクト。学生同士や学生と教員の距離が、とても近い。アルバイト先や家庭のことまで知っている。すごく大きいことだな、と思いました」
そのルーツは、仏教福祉学科発足時(62年)までさかのぼれる。
学科の主任教授は、秦隆真(1898~1975)。秦は、大正大学の学生時代に、渡辺海旭(かいぎょく)(1872~1933)に師事している。
学科創設時の学生は1学年十数人。秦は毎月、法衣のたもとから1万円札を四つ折りにして研究室の副手らに渡した。研究室の雑費や学生のコンパの補助に、との思いからだ。
<スキ焼き鍋を囲み、学生と肩を組んで歌う姿が目に焼き付いている。福祉一家といった感がありました>
当時の研究室副手の述懐だ。
慈父のように慕われていた秦。学科開設3年目に胃潰瘍で入院した時も、学生が輸血を行い、恩師を救った。まさに家族の絆だ。
社会福祉学部と特色GP
67(昭和42)年4月に、仏教学と浄土学の修士課程の大学院ができてから、大学院も拡充されていった。社会福祉学専攻の修士課程ができたのは71(昭和46)年4月。英語の講読もあり、熱気に満ちていた。
99(平成11)年4月には、日本初の通信制大学院が発足。修士課程の社会福祉学専攻も開設された。
学部ではフィールドワークを推進。こうした取り組みの結晶である『学生の人間力を育む福祉実習教育の開発』が2004(平成16)年7月、文科省の特色GP(Good Practice)に採択された。
社会福祉学部の誕生は、その3カ月前。佛大福祉のエポックともいえる新学部誕生を祝うかのような、特色GPの採択だった。
「実習教育は、小人数で丁寧にやってきました。卒業生が多いので、現場とのつながりが強い。オフィシャルに評価されたことがなかったので、特色GPの採択は、社会福祉学科にとっても大きな自信になりました」
副学長の岡﨑祐司教授は、こう振り返る。
藤松教授も言った。
「佛大には、生老病死にかかわる学部が整っています。佛大で学び、佛大で絆ができて、現場に出る。現役の学生が社会福祉実習でお世話になり、就職先も見つかっていく。そんな好循環が、佛大の強みです」
社会福祉学科の卒業生の半数は、例年、福祉・医療分野に就職する。
現在地を知り月影を追う
佛大のメインビジュアルのポスターに、<還愚(げんぐ)>の文字が見える。伊藤真宏学長(58)が、昨春の就任時に、「法然上人の心を端的に表す言葉」として掲げた。
「還愚とは、愚痴(愚かさ)に還ること。煩悩をぬぐえなくても、自らの煩悩を認めて、丸裸の自分に向き合って、今できることは何かを考える。自分を否定せずに、前に進む。法然さんの場合は、『お念仏を唱える』ことでした」
伊藤学長は風化した案内板の地図を例に出して続けた。
「もし、『現在地』を示す地点が見えなくなっていたら、目的地に行けない。人間も同じで、自分の『現在地』が見えなかったら道に迷う。愚かさも含めて自分のありのままの姿(現在地)を確かめる行為、それが還愚。本当の自分を見つめ、その自分が確かにできることを携えて、着実に未来へ歩んでいく営みです」
ポスターのメインコピーは、こうだ。
<はじまりは、自分のなかにある>
佛大は、開学から今年で110年。「還愚」で「今」を確認して前へ。月影を追う、大航海が続く。
(関西支局・平田篤州)

