【花園大・下】地域貢献 実践重視で進める

2026年0324 福祉新聞編集部

「社会福祉は頭はいらんのだ、足がいるんだとそういうふうに言うんです。(略)学問うんぬんというようなことは社会福祉にはなじまない」
1981(昭和56)年、元大阪市立大教授、岡村重夫(1906~2001)が「花園大学社会福祉懇話会」に招かれ、講演した際に語った言葉だ。
「懇話会」は1970年代半ば、社会福祉学科の教育体制を一新する中で生まれた組織。福祉職に就いた卒業生、教員、学生が互いに交流し学びを深め、年1回、講演会や懇親会を実施していた。岡村の講演内容は、「懇話会」の機関紙『福祉と方法』第4・5合併号に収録されている。
岡村は、福祉の世界では誰もが知る「岡村理論」を打ち立てた日本の社会福祉学の泰斗。福祉利用者の立場や環境に寄り添う考え方を説いた。
その日の講演では「処遇原則の発展と福祉的人間像」をテーマに話し、制度よりも人間的な処遇の回復を訴えた。
ディスカッションでは、卒業生、教授陣を交えて討議。「現場体験は座学にも増して重要」との認識を示した。
「懇話会」が目指す教育は、岡村と同じ方向を向いていた。その精神は現在の「花大スピリッツ」(福祉専門職の卒業生と学生との交流会)に受け継がれる。花大の特徴である「実践重視」の萌芽は、「懇話会」から生まれた。

大事なことは現場で学べ
「実践重視」を体現した卒業生の一人が、児童自立支援施設阿武山(あぶやま)学園(大阪府高槻市)で教護を務めた辻光文(こうぶん)(1930~2016)元副園長だ。
禅寺に生まれ、終戦直後の臨済学院専門学校に学ぶが、福祉の道へ。非行などの問題を抱える子どもたちと寝食を共にし、自立に導き、退職後は花大で教えた。
辻の業績を研究する安田三江子教授は「晩年、先生は『ただただ、子どもたちと暮らしただけ。それだけ』と話された。『共に生きる』ことの大切さを教わった」と評した。
1980年代になると、社会福祉学科開設当初、学生の約半数を占めていた寺院子弟は5%以下に。一方で福祉分野への就職者は着実に伸び卒業生の25~30%以上になった(『花園大学研究紀要』第22号)。
「社会福祉士及び介護福祉士法」制定(87年)などの社会的要請にタイムリーに応じ、専門職の育成を担っていったのだ。
88(昭和63)年の卒業生、滝沢一人さんは、現在、京都市内で障害福祉サービス事業所「かしの木学園」と同「すずしろ」の施設長を務める。
「『大事なことは現場で見て学べ』というのが先生方の口癖だった。教員と学生の距離が近く、夏休みになると教授に連れられて車で九州や東北の方まで施設を見学に行った。そこで1週間ボランティアをしたこともあります」
こう、当時を懐かしんだ。

社会福祉学部、3学科体制へ
高齢社会に突入した90年代、在宅を含めた多様なニーズが増加。これに呼応して92(平成4)年、文学部社会福祉学科は独立し、社会福祉学部になる。さらに98年、修士課程(大学院)を設置し、卒業生らにリカレント教育の場を提供した。
阪神淡路大震災(95年)では、社会福祉学部の数人の学生が主導して、ボランティアグループを結成。110人の学生が参加した。ボランティア精神は、今に受け継がれる。
「右京中学生学習会ひまわり」もその一つ。生活困窮家庭で育つ不登校の子どもたちへの学習支援ボランティアで、開始から10年近く続いている。京都ユースサービス協会に協力して、学生が「子どもの居場所」で週1回、勉強を教える。将来の進路について相談に乗ったりして、子どもが学校に通えるようになることもある。
「ひまわり」を指導する吉永純(あつし)教授(人権教育研究センター所長)は、「人をどう支援するか、人の気持ちをどう理解するかという福祉の原点となる大事な経験を積んでいる。社会福祉実践の手ごたえを感じられると同時に、学生自身の居場所にもなっている」と評価する。
2000年代に入ると、福祉課題は多様化。児童虐待、家庭内暴力、引きこもりなど、心理的援助の必要性が高まり、福祉心理学科(02年。現臨床心理学科)、児童福祉学科(09年)を相次いで設置。現在の3学科体制が確立した。

SSW教育課程を設置
今年3月17日、令和3年度の卒業式が行われた。マスクをはずし、写真を撮る卒業生らの笑顔は、ひときわ輝いて見えた。
一ノ瀬淳さん(社会福祉学部)もこの日、卒業を迎えた。4月から放課後等デイサービスで働く。将来はスクールソーシャルワーカー(SSW)を目指すという。
「小中学校時代、病気がちで不登校になった。そのとき親身になってくれた先生のお陰で、今の自分がある。今度は自分が子どもたちの助けになりたい」
子どもの貧困や児童虐待問題が顕在化する今、SSWに注目が集まる。花大は17(平成29)年、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(東京都)が認定する「スクールソーシャルワーク教育課程」を京都府下で初めて設置した。
指導をする梅木真寿郎教授(社会福祉学科主任)は、自らもSSWの経験がある。
「この仕事は福祉と教育現場を結ぶ重要な役目。児童領域などで現場経験が豊富な人が務めるケースが多く、大学で学んでもすぐには務まらない。卒業生が資格をどう生かすかの『出口問題』は学部の課題です」(梅木教授)。

地域貢献できる人材育成
今後、花大はどこに向かうのか。
社会福祉学部長の福富昌城(まさき)教授は「社会福祉学科としては、実践家の養成を一層めざす。そしてもう一つの柱として、地域貢献できる人材育成にも力を入れていく」と話す。
20(令和2)年度、「地域貢献コース」を開講。学生らが市民団体と協働し、地域の親子に祇園祭を周知するための「こどもと行こう!祇園祭プロジェクト」で情報冊子を作成した。
昨年は社会福祉学科のゼミ学生が、「モバイル屋台」を作り地域活性化に貢献、京都市から高い評価を得た。
20年に大学が設置した地域連携教育センターとも連携して、地域貢献に取り組んでいる。

「モバイル屋台」の取り組みは、京都市「輝く学生応援アワード」に

(関西支局・和田依子)

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