[新機軸]「困り人に目背けず」 経営難の法人を吸収合併(大阪)
2024年08月09日 福祉新聞編集部社会福祉法人聖徳会(岩田敏郎理事長、大阪府松原市)が今春、地域密着型特別養護老人ホームを新設した。松原市の東北圏域で、地域包括ケアの中核法人となるための集大成の事業だ。そんな大変な時期に、経営難に陥った社会福祉法人の吸収合併に踏み切った。「目の前に困っている人がいる。そのことに目を背けることはできない」。創設から120年余の法人理念が、弛たゆまぬ挑戦を支えている。
同市の東北圏域の人口は約4万人。法人本部の入る特別養護老人ホーム「大阪老人ホーム」を拠点に、10年ほど前から施設や機能の集約を進めてきた。
大きな節目が4月1日の地域密着型特養「大阪老人ホームゆずり葉」の開設だ。大阪老人ホームの向かいにある法人所有地にサテライト施設として建設。鉄骨造り3階建て、総工費約10億4000万円。近鉄松原駅前にあったデイサービスセンターを1階に移転、既存の通所A型のデイサービスセンターと隣り合わせに集約。2、3階を特養の40床(内11床はショートステイ)に充てた。
職員は約40人。老朽化などで10年前に解体した特養「大阪新生苑」の跡地での事業だ。法人内で「私たちの原点は特養」と決め、ひたすら松原市の公募を待った。ゆずり葉には子孫繁栄、次代への継承の意味が込められている。
地域に開く
施設と機能の地域集約は2015年5月、法人本部の近くに定員20人のサービス付き高齢者住宅を造ることから始まった。
幹線に面した1階に地域の人々や生活困窮者らも利用できる無料低額診療所(1952年開設)を移転。ワンコイン(500円)で、誰もが体操やジャズダンスなどを楽しめる「健康スタジオまつばら」も併設した。
2018年3月には、のちにゆずり葉が建設されることになる跡地の隣に、認知症対応型グループホーム(定員18人)と小規模多機能型居宅介護施設(登録29人、通所15人、宿泊8人)を開設。通所、訪問、泊りという仕組みが根付いていった。
誰もが「夢追い人」
22年暮れ、近隣市の社会福祉法人が経営難に陥り、相談が寄せられた。コロナのクラスター発生後、特養(定員120人)の稼働率低下が続き、職員確保もままならないという。
ゆずり葉の建設が決まった矢先で、建築費の高騰に悩んでいた時である。
「築30年を経た特養は将来、大規模修繕が必要になる。ゆずり葉がこれからという時に、火中の栗を拾えるのか」
幹部職員も交えて、検討を重ねた。結論は「吸収合併」だった。「引き受けなければ、利用者さんが路頭に迷うかもしれない。社会福祉法人として培ってきた地域での芽生えを絶えさせてはいけない」
困っている人に目を背けないという法人の理念を貫いた。「経営に情けは禁物」と自問しながらも、誰もが「夢追い人」になった。
社会福祉法人は「公器」
常に「時代の、その先」を合言葉に歩んできた。岩田理事長の父、克夫が著した老人福祉論のタイトル「歴史に学び 今日を考え 明日を思う」を実践する活動だ。
岩田理事長はこう話した。
「聖徳会と施設は『公器』です。世間は忘れているかもしれませんが、私たちは忘れません」
聖徳会 創設者は岩田民次郎。1902年12月1日に設立した大阪養老院が前身。日本で4番目の養老施設だった。孫娘婿の岩田克夫が第2代院長になり、戦後の52年4月に社会福祉法人に。65年5月、「聖徳会」と改称した。克夫は全国老人福祉施設協議会の会長を務めた。2002年に克夫の長男、岩田敏郎が第3代理事長に就任。高齢、保育、医療事業のほか、高齢者在宅支援事業など26事業を展開。職員は約500人。年間総予算は約30億円。