〈社会福祉ヒーローズ〉固定観念壊し、こども主体に 第二の人生、さらなる改革

2023年0530 福祉新聞編集部
園児たちを優しく見守る村上さん(左)

冨岡保育園(岡山・笠岡市)

副園長 村上太志さん

 

 高校3年の時、幼稚園のボランティアで園児から「明日もきてね」と言われ、社会から必要とされる喜びを初めて感じたことがきっかけで保育士になった。

 

 園児を楽しませることに励み、やりがいも感じていたが、経験を積むにつれて、園が準備した計画通りにこどもたちをコントロールしているのではないかと疑問を持つようになった。

 

 思えば村上さんは幼少期、海や山に囲まれた環境で年齢が近いこどもと遊び、地域の大人に見守られながら自由に育った。大人にコントロールされた記憶はあまりない。

 

 ちょうどそのころ東京の保育園の視察で、大人から何かをさせられるのではなく、こどもたちが自ら考えて判断する保育に出合い、こども主体の保育改革に取り組む決心をした。

 

 2017年に年齢別クラス制、担任制をなくして「異年齢保育」を導入。園庭の複合遊具を撤去し、運動会、発表会、参観日もやめ、保育はこういうものという固定観念をすべて壊した。当初こそ疑問視する声もあったが、一人ひとりの園児にさまざまな保育者が多様な価値観を持って関わることにより、管理や評価に偏らないこども主体をサポートする保育が実践できるようになっていった。

 

 園児がこどもの時間を生き、言葉にできないような表情が見られ、改革をさらに進めようとしていた矢先、突然がんが発覚。余命2カ月の宣告を受けた。園の仲間や友人、家族ら周りの人が諦めずに応援し続けてくれたことで村上さんも「絶対保育改革の現場に戻る」という強い気持ちを保ち続け、復活することができた。

 

 いま保育改革は、近所の高齢者が園児と一緒に昼食を食べたり、小中高生が放課後に園児の面倒を見に来たり、地域を巻き込んだものになった。村上さんは「いろんな世代のごちゃまぜの地域で、あるがままに育った場所を取り戻そうとしているのかもしれない」と言う。奇跡的にもらった第二の人生。感謝の気持ちを忘れず、さらなる保育改革のため「こどもが真ん中のまちづくり」に取り組む。

 

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