【日本福祉大・上】「身をもって苦難に当たれ」

2026年0217 福祉新聞編集部

満州事変から15年に及ぶ戦争に敗れ、日本は食糧難とインフレにあえいだ。「食糧の増産に水を」。たびたび干ばつに泣いてきた愛知県・知多半島の農民の要望を受け、「愛知用水」工事が始まったのは1957(昭和32)年である(61年通水)。
幹線水路約113キロ。岐阜県で取り込んだ木曽川の水は名古屋市東部を経て半島の突端へ、さらにその先の離島まで農業や工業の用水、飲み水として5市5町(人口計約63万人)を潤す。
その着工の4年前(1953年)。日蓮宗僧侶・鈴木修学(しゅうがく)(1902~62)の努力で「中部社会事業短期大学」は全国で3番目の福祉系短大として名古屋市昭和区に誕生した。「悩める時代の苦難に身をもって当たり……社会の革新と進歩のために挺身する志の人を」(修学『建学の精神』)、と。今年はそれから70年目。半島を丸ごとフィールドに8学部10学科6大学院研究科を擁する日本福祉大学へと成長した。
「地域と世界を視野に入れ、大学の人材や知識をもって100歳まで生涯学習できる福祉文化をつくり、すべての人が〝ふつうのくらしのしあわせ〟を追求できる社会を実現する―これが大学のミッションです」。〝ふくしの総合大学〟として「知多半島モデル」構築を目指す丸山悟理事長(67)の口調は熱っぽい。

短大から大学へ看板を掛け替える鈴木修学。足元には古い門札が

ルーツは法華経
濃尾平野の北部、木曽川沿いにある愛知県江南市の農家兼商家に修学は生まれた。菓子パンの製造販売で成功した実直な青年は、法華経の教えに従い慈善事業を進める「仏教感化救済会」会長、杉山辰子法尼に師事、福祉へ開眼していく。
ハンセン病や児童養護の施設、方面委員(現・民生委員)などで活動。実務上の責任者を務める財団法人「大乗報恩会」に厭戦(えんせん)的な言動などがあるとの理由で、理不尽にも彼は特高警察に58日間も拘留されている(これを機に「昭徳会」と改称)。しかし、たじろぐことなく戦後も育児院や少年寮の経営を引き受け、街にあふれる戦災孤児や知的障害児を世話し、得度翌年の1947年には、のちに法ほう音おん寺じと改号するお寺を開いている。慈悲と至誠、堪忍の人であった。
「日本の再生には社会事業に従事する専門家がいる。大学で養成を」
GHQ(連合国軍総司令部)のリードで1950年3月に設置許可・開学した日本社会事業短大(現・日本社会事業大)と大阪社会事業短大(現・大阪府立大、今年4月に大阪公立大へ改組)に続いて名古屋でもという修学の意見に法音寺の檀信徒は呼応。厚生省も支援する方針だったという。
しかし、東西両校の開校2カ月後、朝鮮戦争が勃発。自衛隊発足(1954年)など防衛費のため社会福祉予算は圧縮され、補助金はゼロに。大卒初任給が1万円の時代、多くの檀信徒が浄財(1口5000円)を寄せ、資材などを提供した。設立認可の知らせは身延山(山梨県)で荒行中の修学へ届き、中部社会事業短大(社会事業科)は1953年、歩み出す。

MSWの草分け
教員はわずか6人。教育と宗教の分離など5原則を条件に相談に乗ってきた元名大医学部精神科の村松常雄教授(1900~81)を中心に、今岡健一郎(社会事業)、近藤浩一郎(発達心理)らを助教授陣に据えた。そのひとりがわが国の医療ソーシャルワーカー(MSW)の草分け、浅賀ふさ(1894~1986)であった。
知多郡半田町(現・半田市)で育ち、1916(大正5)年に日本女子大学校英文科を卒業。アメリカのシモンズ女子大、ハーバード大学で社会事業や教育学を学んだ。帰国し、東京の聖路加国際病院で働いた。婦人参政権運動や戦後は厚生省で児童福祉法の制定(1947年)に関わったが、修学に乞われ名古屋へ。

学生と懇談する浅賀ふさ教授(中央)

「卒業論文は短大生にとって重荷であったらしく……学生一人一人に会って、めいめいの関心のある処(ところ)を引出す話しあいの中から……論題をきめることができました」(『日本福祉大学の二五年』より)
九州から関東まで83人の第1期生と粗末な校舎の夕日の差す部屋で親身に向き合った思い出を、浅賀はつづっている。ある者はストライキ中の紡績工場(名古屋市)で女子工員らに労働条件や日々の生活について聞き取り(社会実習調査)し、ある者は家庭の中の封建制や虚弱児・障害児の現状などをテーマに卒業論文をまとめ、67人が社会へ巣立って行った。

(横田一)

 

日本福祉大メモ
名古屋キャンパス(大学院)と知多半島の美浜(社会福祉、教育・心理、スポーツ科学、福祉経営<通信教育>)、半田(健康科学)、東海(経済、国際福祉開発、看護)の3キャンパス8学部に計1万2900人(うち通信教育約7000人)の学生が学ぶ。
 理事長=丸山悟▽学園長=鈴木正修(しょうしゅう)(法音寺山首(さんしゅ)・社会福祉法人昭徳会理事長)▽学長=児玉善郎。
 福祉社会開発研究所、地域ケア研究推進センターなど13研究機関や中央福祉専門学校、クリニック、付属高などを持つ。国内外10ヵ所に地域オフィス・サテライトがある。

0 Comments
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る