高齢、人権、障害者、防災、こども、男女共同参画――六つの白書を閣議決定

2025年0625 福祉新聞編集部

「ずっと働きたい」2割〈高齢社会白書〉

高齢社会白書は、60歳以上の2割が働けるうちはいつまでも働きたい意向であるとする調査結果を紹介している。内閣府が昨年、全国の60歳以上の男女を対象に調査を実施。2200人が回答した。

不定期も含めて収入を伴う仕事をしているのは43%。5年前と比べて5ポイント以上増加した。働く理由は「収入」(55%)が最多。しかし、働くのは老化を防ぐ(20%)▽自分の能力を生かせる(12%)▽仕事が面白い(5%)――など前向きな動機も多かった。

いつまで働きたいかを聞くと「65歳」が24%で最多である一方、「働けるうちはいつまでも」と答えたのは22%に上った。「75歳まで」「80歳まで」「働けるうちはいつまでも」を合わせると41%に上り、5年前より4ポイント上昇。高齢期の就業意欲が高まっている傾向が明らかになった。

このほか、人口5400人の岡山県奈義町が2016年から、地域の人と仕事を発掘してつなぐ事業を開始。事業規模は年々拡大しており、24年時点で個人の登録者は348人、仕事の依頼件数は948件に上ったという取り組みも紹介している。

事業は当初、町が運営していたが、19年度から一般社団法人が運営するなど地域主導となった。仕事を通して高齢者と子育て世代につながりができ、多世代の交流も生まれるなどの効果も出ているという。

障害者差別を特集〈人権教育・啓発白書〉

人権教育・啓発白書は、障害者の強制不妊手術を認める旧優生保護法を憲法違反だとする最高裁判決(2024年7月)を受け、「障害のある人に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた取り組み」を特集した。

法務省と文部科学省が作成した。24年4月施行の「困難な問題を抱える女性支援法」に基づく女性の人権に関する取り組みや、「認知症施策推進基本計画」(24年12月策定)による新しい認知症観、親権・監護権の見直し、職場でのハラスメント防止については、トピックスとして解説している。

差別根絶へ行動計画〈障害者白書〉

障害者白書は、旧優生保護法を違憲とする最高裁判決を受けて策定した障害者への偏見差別の根絶に向けた行動計画や、不妊手術を強制された人らに対する補償法、原因検証や定期会議といった恒久対策などを詳説した。

障害を理由とする差別に対する内閣府の相談窓口「つなぐ窓口」の最新データも記載。2023年10月から25年3月までに4602件の相談が寄せられた。8割は障害者からで、相談における相手方は行政、医療・福祉、教育・学習支援が多かった。

また、G7とEUの障害者施策担当閣僚の会合が初めて開かれ、すべての人があらゆる活動に参加する権利があることを確認する「ソルファニャーノ憲章」を採択したことなども紹介している。

危険な場所に住まない〈防災白書〉

防災白書は、災害リスクの高い地域の開発抑制と安全な地域への居住誘導の必要性を盛り込んだ。地方自治体の公務員が減少する半面、高齢者増に伴い災害時の要配慮者も増えることから「公助の限界が懸念されている」とした。

その上で「国民一人ひとりが、その地域の災害リスクを的確に認識し、危険な場所に住まないなど正しい知識・情報によって居住環境を含め災害リスクの低いライフスタイルを選択できるよう社会全体で取り組んでいく必要がある」と明記した。

地球温暖化に伴う気象災害の激甚化・頻発化が進むと、行政主導の対策だけで災害を防ぐことが困難と判断。他人ごとでなく自分ごととして災害を捉えて行動を起こすよう呼び掛けた。

特集では2024年1月の能登半島地震を受けた防災対応の見直しと、「防災庁」設置に向けた検討状況などを取り上げた。

居場所、保育施策の方向性〈こども白書〉

こども白書は特集で、こども、若者の居場所や保育政策の方向性など四つのテーマを取り上げた。

こども、若者の居場所では、こどもの居場所づくりに関する指針を踏まえつつ、こどもの居場所づくりコーディネーターの配置支援など関連施策を紹介している。

昨年12月に取りまとめた、量から質へ政策の軸を大きく転換する「保育政策の新たな方向性」について、これまでの待機児童対策も踏まえて全体像を提示。こども誰でも通園制度や保育士の配置基準改善、処遇改善など質向上に向けた取り組みを掲載した。

地元場慣れの理由に男女差〈男女共同参画白書〉

男女共同参画白書は、出身地を離れて東京圏に住む理由に、男女差があることを示す調査結果を盛り込んだ。全国どこでも女性が活躍するには、地方に根強く残る無意識の思い込みを解消したり、女性の起業や雇用環境を改善したりすることが不可欠とみる。

調査は2024年12月、18~39歳を対象にインターネットで行い、男女計1万人が回答。出身地を離れて東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に住む人にその理由を尋ねたところ、「希望する進学先が少ない」とした人の割合は女性(42.1%)が男性(29.7%)を大きく上回った。

「地元から離れたかった」「親や周囲の人の干渉から逃れたかった」と回答した人の割合も、男性より女性が多かった。一方、東京圏に住む地方出身者のうち、「出身地に愛着がある」としたのは男性が50%なのに対し、女性は62・9%と高くなっている。

都市部への女性の流出が深刻化する中、地元に愛着はありつつも戻らない傾向が見えることから、白書は「地元を離れても帰りたいと思える地域への変革が必要だ」と強調している。