〈社会福祉ヒーローズ〉こどもに生きる力を ホースセラピーでサポート

2023年0428 福祉新聞編集部
馬に乗る放課後デイ利用のこどもと菅野さん(右)

ワークくわの木 かなぎライディングパーク(島根)

児童指導員 菅野宏美さん

 

 ホースセラピーは馬のぬくもりに触れて心が安らぎ、馬上で揺られることでリラックスし、全身の筋肉を無意識に使うことで体力がつく。馬に乗って操ることにより自信が持てるようにもなる。

 

 菅野さんは大学3年生の時、発達障害児や不登校児らを対象としたホースセラピーの活動に参加し、こどもたちの表情や行動がどんどん明るく前向きになっていく姿を見て、ホースセラピーの仕事に就くことを決め、出身地の神奈川から島根に移住した。

 

 勤務する施設では16頭の馬を飼育し、年間延べ約3000人の小中高生が、餌やりやブラッシングなどの馬の世話、厩舎きゅうしゃの掃除、乗馬などをしながらホースセラピーを体験する。

 

 動物好きで念願の仕事に就いた菅野さんは当初、大学などで学んだ知識を生かして支援に張り切っていた。だが、ある日、上司から「ここは乗馬スクールではない。こどもたちの自立や生きる力を身に付ける場所」と指摘され、ハッとさせられた。それからは、こどもたち一人ひとりの障害特性や個性に合わせたホースセラピーを意識するようになった。

 

 小学4年生の発達障害のあるB君は動物好きだが、慎重な性格で自分より何倍も大きい馬に乗るのは怖い。それでも諦めず少しずつできることが増えていった。初めて馬に乗って歩くことができた時のB君の安堵あんどの表情は今も忘れられない。B君の母親から「息子が諦めずできるまで努力できたのは馬のおかげ」とうれしい言葉もいただいた。

 

 馬は信頼できない人の言うことは聞かない。こどもたちが日々世話をし、コミュニケーションを取ることで信頼関係が築ける。言葉も通じない馬との関わりを通して信頼され、認められるという経験は、こどもたちの自己肯定感向上や成長を促すことにつながる。「この仕事の醍醐味はこどもが壁を乗り越えて成長していく姿を間近で見られること」と菅野さん。職員や馬と協力して、こどもたちの将来に向けたサポートに取り組みつつ、ホースセラピーの普及にも挑戦していく。

 

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